日本のインフラファンド投資市場規模調査 2021年3月 ~調査結果~
日本のインフラファンド市場規模は1.8兆~2.3兆円
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三井住友トラスト基礎研究所は、日本のインフラファンド投資市場規模を調査し、2021年3月末時点の資産額ベースで1兆8,000億~2兆3,000億円と推計した。このうちファンドからの出資分は6,000億~8,000億円で、残りは融資などによる資金調達と考えられる。このうち上場インフラファンドは7銘柄で約2,800億円(資産額ベース)、上場インフラファンド以外で国内インフラ投資残高が確認できた運用会社は30社を超えた。
調査は2018年から実施しており、今回が4回目。国内のインフラに投資するファンドの公表情報を収集、必要に応じて運用会社へのヒアリングも行って市場規模を集計した。調査で対象とするインフラは、再生可能エネルギー発電施設(太陽光、風力、バイオマス、小規模水力、地熱)、火力発電所、空港、道路、通信施設など。データセンターは海外ではインフラに含めるケースもあるが、本調査では対象外としている。
1年間で約5,000億円の大幅増加
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市場規模は、資産額ベースで1年前に比べて約5,000億円の大幅増となった。このうち上場インフラファンドの増加分は約1,100億円。上場インフラファンド以外でも、大手運用会社の既存ファンドによる投資が太陽光発電施設を中心に順調に進捗し、全体の残高が大きく増加した。資産総額では、スパークス・グループや大和証券グループ系のIDIインフラストラクチャーズなどが大きい。
ファンドに組み込まれた資産のほとんどは、再生可能エネルギー発電施設であり、中でも、太陽光発電施設が8割以上を占めるとみられる。風力や火力などの発電施設を投資対象にするファンドもあるが、投資対象は依然として「太陽光偏重」が続いている。上場インフラファンドでも資産の多様化を検討する動きは出てきているものの、今のところ投資対象の全てが太陽光発電施設である。
カーボンニュートラル宣言により再生可能エネルギーへの投資が拡大
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2020年度上半期は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、新規のファンドレイズや資産取得は低調に推移した。しかし下半期は、10月の菅義偉首相によるカーボンニュートラル宣言や2021年1月の米国バイデン政権の誕生により、再生可能エネルギーやESG(環境・社会・ガバナンス)投資への注目度が世界的に高まり、再生可能エネルギー発電施設などへの投資が大きく拡大した。
上場インフラファンドでは、2020年12月から2021年3月の4ヶ月間での資産取得が、2020年度の年間合計の9割近くを占めた。また、私募ファンドでも、1月にグリーンパワーインベストメントが再生可能エネルギー発電施設を投資対象とする530億円のファンドを立ち上げたほか、Equis DevelopmentやKKRなどの海外勢が、日本を含むアジア地域を投資対象とする1,000億円超の大型ファンドをそれぞれ下半期にクローズしている。
投資対象の多様化で一層の市場拡大の可能性
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足元では国内投資家に加えて海外投資家の間でも、再生可能エネルギー発電施設を中心に日本のインフラ投資への関心が高まってきている。ただ、市場の更なる拡大には、その投資対象をより多様化させる必要がある。再生可能エネルギー発電施設でも、太陽光はFIT(固定価格買取制度)の見直しや開発適地の減少により中長期的には成長が鈍化する懸念がある。そのため、洋上風力や水力、地熱、バイオマスなどへの多様化が期待される。
再生可能エネルギー発電施設以外のインフラでは、これまでコンセッションを活用した民営化の進む空港分野に期待が集まっていたが、コロナショックからの回復が見通せず、投資意欲はやや低下している。半面、国や自治体が収入を担保する社会インフラへの関心は高まりつつある。実装に向けて注目されるスマートシティについても、海外では既に専門ファンドが運営されるなど、今後は投資対象としての注目が集まる可能性がある。
上場インフラファンドの多くは、投資資産を当面1,000億円規模に拡大することを目指している。各スポンサーが保有する再生可能エネルギー発電施設(開発中を含む)の合計は1,500MW超あり、将来的に合計5,000億円程度の資産の積み増しが可能な水準である。ここに私募ファンドの増加分を加えると、今後数年で再生可能エネルギー発電施設だけで1兆円近い資産の積み増しが期待できる。市場の一層の活性化に向けては、再生可能エネルギーへの注目度が高いうちに投資対象の多様化を進めることが、日本のインフラファンド市場の持続的成長の鍵になるだろう。