不動産私募ファンドに関する実態調査
 ~2024年7月 調査結果~

株式会社三井住友トラスト基礎研究所

     本調査は一般社団法人不動産証券化協会(ARES)と株式会社三井住友トラスト基礎研究所(SMTRI)が共同で実施した、第5回「不動産私募ファンドに関する実態調査」である。SMTRI単独では、2003年12月より本調査をアンケート形式で行っており、今回の調査で38回目となる。共同調査への移行後は、有効回答率が増加しており調査精度が高まっている。

  - 調査対象:国内不動産を対象に不動産私募ファンドを組成・運用している不動産運用会社
  - アンケート送付先数:163社
  - 回答社数:93社(有効回答率:57.1%)
  - 調査時期:2024年7月~8月(2024年6月末基準)

不動産私募ファンドの市場規模は、私募REIT・グローバルファンドを含めて38.6兆円と推計

  • 上記アンケート結果およびヒアリング・公表情報をもとに、2024年6月末時点の不動産私募ファンド(私募REIT・グローバルファンド含む)の市場規模(運用資産額ベース)を38.6兆円と推計した。この数値は、ARESが把握している国内私募REITおよびSMTRIが把握しているグローバルファンド(※)の国内不動産運用資産額を含めている。前回調査の運用資産額(2023年12月末時点:35.0兆円)から約3.6兆円増加し、増加率は前回の+4.8%から今回+10.1%に回復した。運用資産規模を拡大させた運用会社数は、規模を縮小した運用会社数を上回り、運用資産規模の拡大がみられる。2024年上半期は、日本銀行のマイナス金利政策解除が間近に迫っているとの観測の下、不動産の供給サイドであるデベロッパー等の事業会社が売却・資金回収を急いだ可能性がある。一方で、前回調査で指摘した、欧米の不動産市場の不振を受けた海外投資家が国内不動産を売却する動きについて一服感が生じた可能性がある。一部慎重姿勢がみられるものの、エクイティ投資意欲は引き続き堅調である。ただし、日銀によるマイナス金利解除が示された4月以降は、今後の金利動向次第で投資方針の変更を検討する姿勢を示す運用会社も一定数にのぼることには留意が必要である。

    ※グロ-バルファンド・・・日本以外の国も投資対象とするファンドとして定義

エクイティ投資意欲は堅調も金利上昇により一部慎重姿勢。日銀マイナス金利政策解除の影響は限定的だが、金利動向次第で投資方針の変更を検討する運用会社も一定数に

  • 運用会社から見たエクイティ投資家の投資意欲は引き続き「変化はない」の回答が大半を占めており、堅調なエクイティ投資家の投資意欲が確認された。ただし、23年7月調査以降、「低くなってきている」の回答割合が「高くなっている」の回答割合を上回る状態が続いており、徐々に金利上昇局面に転じる中で一部に慎重姿勢が見られる。
  • 投資家属性別の投資額をみると全ての属性で「横ばい」との回答が大半を占める状況に変化はないが、「国内事業法人」では「増加」の回答割合が増加、「海外年金基金」では「減少」の回答割合が減少するなど、投資姿勢は底堅く推移している。ただし、国内企業年金では「増加」の回答割合が減少している。また、国内大手銀行で「増加」の回答割合が減少したのに対して国内地方銀行では「増加」の回答割合が増加しており、国内銀行間で方向性が乖離する結果となった。金利上昇をはじめとする金融経済環境の変化を受けて、属性によって不動産投資市場の見通しに対する評価姿勢に差が生じている可能性がある。
  • 日銀による2024年3月の金融政策決定会合で決定したマイナス金利政策の解除、イールドカーブコントロールの廃止等の政策変更を受け、投資方針に変化があったかという質問に対しては、「変化があった」とする回答は16%にとどまり、「変化がなかったし、今後も当面ない」が51%で最多となった。ただし、投資方針の変化はなかったが「今後10年国債金利が定常的に1.0%を超えるような状況になれば投資方針変更を検討する」とする回答が33%となり、今後の金利動向次第で変更を検討する姿勢を示す運用会社も一定数にのぼる。

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