国家戦略特区の注目点は「グローバル×ホスピタリティ」

研究主幹 北村 邦夫

 先月、国家戦略特区の第一弾として東京圏を始めとする6地域が指定された。これまでにも規制改革を推進するための様々な特区があり、48の地域、1200超の計画が認定されている。今回の特区指定を契機に不動産市場への影響、特に中長期の不動産需要を考える際に「グローバル×ホスピタリティ」をキーワードとして注目したい。国家戦略特区では、医療、雇用、教育、農業、都市再生等の分野で規制改革を進めて経済と地域を再生することが目指されている。改革の狙いの1つは外国人を含む民間への市場開放の促進と解せる。うまくいけば海外の人材や事業者の国内での活躍が増加することとなろう。また、医療、教育等の分野は、基本的に個客向けサービスであるので、その技術的向上だけでなく、満足度を高めるホスピタリティがますます求められる。ホスピタリティ産業は狭義には宿泊、運輸、旅行業を指すが、広義に捉えるなら医療、福祉、教育を始めとして、個客向けサービスの幅広い業種が該当する。人口が減少し市場全体の規模が縮小する高齢・成熟社会にあって、ホスピタリティビジネスは今後も成長可能性が高いと考えられる。昨今、海外でも評価が高まっている「おもてなし」文化の伝統を持っている日本ではあるが、その優れたサービスは現状ではいわゆる接客業にとどまっている感があり、医療、福祉、教育の分野ではホスピタリティの面でまだ先進国とはいえないとの指摘がある。ホスピタリティの提供は、現場のスタッフ個人の裁量も大きいがマネジメントの確立も重要である。その点で、一日の長がある海外事業者から学ぶべき点は多く、今回の特区指定をきっかけに優れた海外事業者の参入が増えれば効果的である。ディズニーランドの運営等で定評のある米国では、以前より医療、看護や介護の現場でホスピタリティを重視したマネジメントが行われている。2000年に米国のヘルスケアリートの市場動向を調査した際に、ヘルスケアリートが保有する介護付き高齢者賃貸住宅の主要テナントの1つに世界的なホテルチェーンのマリオットグループの運営会社があった。マリオットグループは、ホスピタリティビジネスとして、ホテル、リゾート、長期滞在施設、高齢者向け住宅の事業を展開していた。

 国内不動産分野では、物流、サービスアパートメント、ホテル等において開発あるいは運営面で海外事業者の存在感が高まっている。最近でも、マレーシアのLCCであるエアアジアの系列で格安ホテルを展開するチューン・ホテルズが日本に進出している。日本の伝統的なおもてなし文化と海外の優れたホスピタリティマネジメントの活発な流入によって個客ニーズを開拓できれば、新たな不動産需要が創出される。2020年の東京五輪はスポーツの祭典であるが、同時に日本がホスピタリティ分野のビジネスのグローバルな競演の場として世界から注目され、不動産の事業・投資機会が今後も豊富に生み出されることを期待したい。

(株式会社不動産経済研究所「不動産経済ファンドレビュー 2014.4.25 No.321」 寄稿コラム)

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