GとLの物語
のっけから私事で恐縮だが、昨年、外資系の会社から、当社に転職した。前職では、不動産投資のパフォーマンスを表す不動産インデックスを構築し、これをもとに個別ファンドのパフォーマンス分析を行うサービスを展開した。一般に機関投資家による不動産投資は、リターンとリスクの観点から他の投資財との相関性を吟味しつつ行われ、大規模な機関投資家になればグローバル投資も進んでおり、不動産インデックスが、意思決定における重要な指標のひとつとなっている。
日本の不動産インデックスも、グローバルな不動産投資家には利用されつつある。しかし、国内の投資家が有効に活用しているかというと、必ずしもそうではないようだ。何故だろうか。GFC後によく読まれた本のタイトルを借りると、「不動産は特別である/Real Estate is different」ということばの信者が多数派だからというのが、私の仮説である。確かに、不動産投資を株や債券への投資と同列には語れないが、不動産投資を特別視する気分は、日本では依然として強いように思われる。とはいえ、グローバル投資の論理(冨山和彦氏の「Gの世界」)を踏まえ、正攻法で不動産投資を展開する日本の投資家の存在感も増している。GPIFが不動産投資に参画するような事態になれば、状況は大きく変わる可能性もあり、もうひとつのGへの期待がある。
他方、新たに取り組み始めたのが、森林ファンドの研究である。なぜ森林なのかという理由をひとつだけ書くなら、Gとは違った論理で、これからの30年といった時間軸で拡がりをもつ可能性がある投資対象を考えたとき、森林のことが気になったということになる。森林については、国土の6割以上が森林である、ということが枕詞になっている。正確には、国土面積3779万haのうち、森林面積は2508万haと国土の66%を占めており、世界的にみてもフィンランド、スウェーデンに続く高さである(『森林・林業白書(平成26年版)』。以下、引用数字は全て同白書による)。資源としての蓄積量も、2012年現在約49億m³と、1966年の約18.9億m³から2.6倍になっている。ところが、産業としての林業は、周知のとおり大変厳しい時期を送ってきた。林業算出額は1980年の約1.2兆円がピークで、2012年は約3917億円と3分の1となった。それもそのはずで、スギやヒノキの素材価格は、1980年のピーク時からおよそ3分の1、山元立木価格(林地に立っている樹木の価格)は、同じく15%程度まで下落している。ところがここ数年、日本の各地で、森林・林業再生の積極的な取り組みが行われてきた。藻谷浩介氏の『里山資本主義』に登場する岡山県真庭市だけではなく、山形県最上町、宮崎県諸塚村など複数の事例がある。これらの活動は、基本的には藻谷氏や冨山氏が述べられているとおり、ローカルの論理(Lの世界)で成功してきた。更に重要なことは、多くの事例が、従来の木材業に木質バイオマス発電を加える、「百業」の思想を現代技術で実現していることである。
ここで、以前本欄(株式会社不動産経済研究所「不動産経済ファンドレビュー No.338」)で浅田義久氏が提起された「地域創生の『創生』って何ですか?」という問いは、「This time is different?」とともに、忘れてはならない問いとなる。GとLの物語は、再生されはじめたばかりである。
(株式会社不動産経済研究所「不動産経済ファンドレビュー 2014.11.5 No.340」 寄稿コラム)
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