『サザエさん減税』は荒唐無稽か

投資調査第2部 主任研究員 室 剛朗

 少子高齢化の流れに歯止めがかからない。15~49歳までの女性の年齢別出生率を合計した数値である合計特殊出生率は、最も低かった2006年の1.32よりは上昇しているものの2013年時点で1.43と依然として低空飛行を続けている。高齢化については、核家族化が進み、介護者不在や孤独死という社会問題となっており、今後は問題が一層大きくなる可能性が高い。先の衆院選においては大きな争点にならなかったが、日本の最も大きな問題の一つは少子高齢化対策であるため、本稿で少し考えてみたい。

 少子化は晩婚化・非婚化による影響が大きいが、意識の変容という以外には、若年層の所得・雇用環境の改善を促すこと以外の直接的な処方箋はない。しかし育児環境の改善は制度によりある程度可能だ。

 筆者は少子化の本質的な問題は経済的側面、子育てサポーターの不在、住環境に集約されると考えている。これにどう対応をしていくかが、問われている。育児環境の問題点は施設数の不足、要は預かり手の存在として認識されているケースが多い。これについては現政府も待機児童ゼロ化に向け、積極的な動きを見せている。それはそれで結構なことであるが、要は「箱」を作れば何とかなるという対策に近く、本質的な問題解決にはほど遠く感じる。現政策では保育施設といういわば「他人」の確保に主軸を置いている。本来であれば当事者たる父親の参画を促す制度改革を行うべきであるし、企業側にも強く要請をするべきであるが、未だに父親の育児休暇取得率は低位なままである。

 ここでは父親の代わりに育児サポーターとなる人員を確保することを提案したい。父親の本格的な参画が望めない場合、(代替として)親族との同居をすることで、生まれてくる子供の世話、送迎などのサポートが期待でき、住居費の低減や住戸面積の確保、可処分所得の増加が期待できる。職場での出産・育児環境の整備とともに、同居を促進するための大幅な「サザエさん減税(=同居減税)」を実施することで、出生率の向上、迅速な職場復帰を支えることが可能となるのではないか。出産後の職場復帰に不安感を覚える女性は相当数に上ると言われる。親族のサポートにより職場復帰が容易になり、少なからず育児の負担を軽減できると考えられる。既に、定住人口を増やしたい自治体によっては3世代同居の支援が実施されているケースもあるが、都市部においても今後の人口動態を考えれば手を打つ必要が高まっている。

 高齢化問題から見ても、同居減税を進めることのメリットがある。高齢世帯の孤独死などが非常に問題となっているが、同居により孤立化を防げる可能性が高まることに加えて、2015年度に予定されている介護保険制度改正(特別養護老人ホームの入所対象者を原則要介護3以上にすること等)により想定される問題のセーフティーネットとして一定の機能を有する可能性もある。また、不動産的な観点で言えば、同減税により高齢化が進む郊外の戸建て中心の住宅地の再活性化も期待できる。バブル期前後までの住宅双六のゴールとして、多くの労働者が郊外の戸建て中心の住宅地に終の棲家を購入した。しかし今では若年層人口の流出が進み、街の新陳代謝が進まず、生活利便施設の減少等により街の活力は失われている。都心居住ニーズの高まりがトレンドとなる一方で、戸建て中心の住宅地は今後一層の高齢化を迎える。危機的状況が目の前に迫っているが、同居減税により若い世代の流入や子供の増加が進めば、このトレンドを緩和する効果が期待できる。

 高所得者世帯の優遇策と捉えられかねないこと、都市部以外の出身者への対応など、超えなければならないハードルは少なからず考えられる。しかし、少子高齢化の払拭は日本の最も大きな成長戦略であり、これに本気で取り組み、様々な方法を考えていくしかない。「箱は用意した、働き方や夫の協力が得られにくい状況に変わりはないが、頑張って『輝く女性』として働き、子育てを頑張ってください」は虫が良すぎる。「女性の活躍」という女性の負担増にあぐらをかかず、打てる対策を増やしていかなくてはならない。男性の育児参加が本筋ではあるが、ほど遠い現状を勘案すれば、日本古来の家族類型を軸に少子高齢化対策に取り組むという案が浮かんでくる。荒唐無稽だろうか。ただ、残されている時間が多くないのも事実である。

 蛇足ではあるが、「箱」の質(面積や立地)という問題を取っても、子供の生育環境として諸手を挙げて良好である、とは言えない状況がある。施設の数を充足するだけでなく、本来子供が成長する上で望ましい広さを確保し、騒音や周辺環境に配慮した「質」を伴う施設の増加にこそ意味がある。施設の「質」への配慮も期待したい。

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