多様性の街 新橋 その可能性

投資調査第2部 主任研究員 室 剛朗

 当社のオフィスは東京メトロ日比谷線の神谷町駅のすぐ近くにある。営業日は昼食などで虎ノ門方面へと歩くこともしばしばある。最近は環状2号線の開通、虎ノ門ヒルズ開業により注目度が高まっており、どこか昭和風情の漂う街並みから、スマートな地域に変わりつつある。これに加えて、隣接する新橋の駅前再開発が予定されているという。この一帯は今後どこまで変わっていくのだろう、想像・妄想は膨らむ。

 一度、虎ノ門・新橋から離れ、オフィス集積の変遷を東京都区部全体で見ていく。1980~1990年代は副都心構想により業務集積の分散が企図されていた。そのため、東京周辺のほか新宿や池袋などに業務集積が分散していたが、特に西新宿は東京都庁を中心に大規模ビルが多く、巨視的な視点からは東(東京)と西(新宿)の2眼レフ構造であったと言える。2000年以降、丸の内や品川駅東口の開発をはじめ東側に重心がシフトしてきた。このような動きに加え、2020年に暫定開業が予定されている品川-田町間の新駅開発や、品川駅の北側に位置するJR車輌基地の開発が本格的にスタートした。それに伴う、オフィス・住宅・ホテル等の新規供給も多く計画されており、品川駅・田町駅周辺の拠点性は大きく向上することが想定される(詳しくは拙稿「品川駅・田町駅周辺エリアの再開発が与えるインパクト」をご参照)。一方、東京駅周辺も丸の内・大手町のオフィスビル建替えや日本橋・八重洲・京橋の再開発により、一層の業務集積機能の向上が見込まれる。特に日本橋・京橋の再開発により、中央通り沿いは銀座から日本橋にかけてオフィスビルと商業店舗が連綿と続き、魅力的な街となっている。これは一例ながら、東京駅周辺と品川駅周辺のプレゼンスが向上し、東京-品川ラインの重要性が一層増すことは想像に難くない。

 次に道路を中心として考えてみると、また違った様相が見えてくる。東京駅周辺と品川駅の力が相対的に強まることを前提とすれば、下図のとおり、東京都心エリアと品川エリアを結ぶ第一京浜、日比谷通り、中央通り沿線がオフィスエリアの中心的な存在になる、またはその傾向が強まることが想定される。更に環状2号線の開通により東西が有機的に結合してきたため、赤坂・六本木エリアと新橋・虎ノ門エリアが一大勢力となる可能性も出てきている。そのような状況になった場合、新橋は東西南北の結節点となる。ニュー新橋ビルに代表される今後の駅前再開発事業で業務集積機能は高まることになり、東京全体における新橋の拠点性は大きく向上する可能性がある。開発内容次第ではあるが、商業集積が進めば隣接する銀座との一体感が出てくる可能性もあり、新橋のポテンシャルは計り知れない。

 近年の職住近接需要を反映して、第一京浜より東側の湾岸エリアの高層マンション供給が一層進むことが想定される。新橋-浜松町間でもそういった動きは起きるだろう。西新橋も中小規模ビルが集積しているが、老朽化したオフィスビルは少なからず住宅にコンバージョンされていくことも想定される。

道路から見た東京のオフィスエリア

 併せて考えると、新橋はオフィス・商業・住宅が混在する都会的な街として生まれ変わることが想像できる。今後の開発により、どんな姿となるのか、今はまだ全容は見えないが、趣が異なる街となっている可能性は高い。ただ新橋は元来、多様な表情を持つ街であり、酔客を含み多くの人を受容し続けてきた。開発により大きく街が変容しようとも、それはきっと変わらない新橋の魅力であり続けよう。

 余談ではあるが、今後の再開発が予定どおり進んでいけば、SL広場でのサラリーマン街頭インタビューが観られなくなる可能性は高い。街頭インタビューは「標準的」なサラリーマンをターゲットとし、世相を反映することが目的で行われてきた経緯がある。今後は恐らく新橋の「標準的」という色彩が薄れていくであろうが、そうなれば次はどこが「標準的」な街となるのか、それも興味深いテーマかもしれない。

※当社では東京の代表的な再開発(丸の内・虎ノ門・品川・湾岸・渋谷エリア)が市場に与える影響について分析を行っております(有償)。ご関心のある方はお問い合わせください。
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