Campaign Now ? ~看過できない米国インフラ劣化問題~

投資調査第1部 副主任研究員 田中 可久

 トランプ大統領就任から、2017年7月20日ではや半年。定まらない方針・体制、メディアとの軋轢、ロシアゲート問題等々、課題は山積である。当の大統領陣営は、外遊で大統領不在の5月23日に予算教書(大統領から議会への予算案)を提出。帰国後の6月からは、「Weekly Campaign」を連発している。「Infrastructure week」、「Technology week」、「Energy week」と続き、 7月17日からは、「Made in America week」が開催された。

 ちなみに、弊社コラムで幾度か触れた米国インフラに関する施策については、前述の予算教書や「Infrastructure week」において、多少ではあるが新しい動きがあった。予算教書では、政府によるインフラ関連予算として10年間で2,000億ドルを掲げ、当初の1兆ドル投資に対する残りの8,000億ドルについては民間投資等を促すものとした。さらに、6月5~9日の「Infrastructure week」では、「Rebuild America's Infrastructure」を宣言し、政府予算2,000億ドルの内訳として、航空管制システム民営化や地方インフラ整備等への支援、適格な交通インフラへのローン提供等を提示。また、合わせてプロジェクト認可期間の短期化(平均10年を2年に)等も明示されている。ただ、就任前から注目されていた政策としては、盛り上がりに欠け、具体性に乏しい面も多い。9月末までに詳細な関連法案を提出するとしているが、果たしてどうなるか。

 足元、米国インフラにおける現実に目を向けると、以前はファンドの資金調達や買収等のニュースが大半だったが、最近は一般紙でもインフラ関連のニュースを見かける機会が増えた。直近では、混雑や遅延で有名なニューヨークのAmtrak(アムトラック)改修工事や、渋滞の名所と言われるオハイオとケンタッキーの州境にあるBrent Spence(ブレント・スペンス)橋の改修等が話題である。Brent Spence橋については、トランプ大統領もインフラ整備関連で言及している代表事例で、全米で最もトラック交通量が多い輸送路の一つに位置し、1963年の開通時と比較すると、経年による物理的劣化だけでなく、交通量増加に伴う荷重超過等による機能的劣化も目立ち、早急な対応が求められている案件である。しかし、橋梁の改修プロジェクトは2012年の公聴会等から始まり、2017年の現時点でいまだにメンテナンス工事が優先し、大規模な改修等に至っていない。仮に橋梁の新設を含むプロジェクトを採用した場合、26億ドルの費用が必要と言われるが、資金調達等の目処もついていない。なお、全米614,387の橋梁のうち、連邦道路庁(FHWA)によれば50年以上経過しているものは39%で、さらに改修等にかかる費用は1,230億ドルと試算されている。官民連携(PPP)等の実績が比較的多いFHWA管理下にあり、インフラ整備評価(米国土木学会)の中では相対的に優良な「C+」評価(全米平均は「D+」)の橋梁においても、このような状況である。他のインフラ資産における現状は推して知るべしである。

 いずれにせよ、Campaign先行とは言え、徐々に進捗が見られることは期待できるが、インフラ整備に関しては、党派を超えた長年の課題であり、迅速かつ実効性のある政策が求められる。共和党下において、政権と議会のねじれがない今だからこそ、一層の期待がかかる分野であり、まずは、不確定な予算による資金確保より、前述の認可期間の短期化のような一定の実効性が想定される規制緩和等から優先し、迅速な政策展開を図るべきである。

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