DX進展で新たな不動産投資トレンドが加速する米国
不動産取引額がV字回復し、過去最高水準を更新
米国における主要4タイプ(賃貸住宅、物流・産業用施設、オフィス、商業施設)の不動産取引額(過去4四半期の移動平均)は2021年第3四半期時点で1,373億米ドルとなり、過去最高水準を更新した(図表1)。
サブプライムローン問題に端を発する不動産バブルが崩壊した際(2007年以降)は、不動産価格の急落や資本市場の混乱から不動産投資への警戒感が強まり、不動産取引額が底打ちする迄に2年、元の水準に戻るまで6年以上の歳月を要した。しかし、今回は2020年第1四半期から2021年第1四半期の底打ちまで1年、その後は僅か半年で直近ピーク水準を超えるV字回復を果たした。米国内のCOVID-19蔓延が発覚した直後に連邦準備理事会(FRB)が矢継ぎ早に緊急利下げ、量的緩和(QE4)を実施したことで資産価格が下支えされた一方、不動産取引額のボトムを形成した2021年第1四半期は、米国内でCOVID-19のワクチン接種が進展した時期とも重なっており、2020年時点では先延ばしにされていた投資が実行され、不動産取引額が急速に伸びたものとみられる。
当面は世界的なサプライチェーンの乱れから、インフレ率上昇の長期化やこれに伴う停滞リスクは懸念されるものの、経済正常化の進展とともに投資活動が活発となっており、インフレ耐性が強い不動産投資の取引額は堅調な推移が見込まれる。
今後も投資拡大が見込まれるサンベルト地帯
米国における不動産取引額の増加率を州別に比較すると、足元で取引量の伸びが目立つのは、サンベルト地帯(北米における北緯37度以南の地域一帯)、その中でもテキサス州、フロリダ州、アリゾナ州、ジョージア州等の米国南部州に集中していることが分かる(図表2、3)。米国南部州で不動産投資が拡大したのは、経済活動の再開をいち早く進めてきたこともあるが、もともと産業誘致に意欲的な州政府が多く、企業移転・雇用創出と共に人口が増加してきたためと考えられる。
因みに日本よりも生活コストの都市間格差が著しい米国では、大規模な人口移動は歴史的に見ても珍しいことではない。1970年代に石油危機が起きた際にも、エネルギーコストや賃金水準が安いことに加え、州政府による優遇措置で企業が次々とサンベルトへ移転し、雇用機会の豊富さと生活コストの低さから大規模な人口移動が起きた経緯がある。このような意味では、州政府の方針は企業立地や人口移動に大きな影響を与え得る。
とりわけ、テキサス州は企業誘致に積極的であることから、全米でカリフォルニア州に次ぐ人口、GDP規模に成長し、今後も米国における経済活動の中核を担う可能性が高い。テキサス州とカリフォルニア州と合わせて「テキサフォルニア」(Texafornia)と表現されることもあるが、両州の中でもカリフォルニア州の事業コストが高騰する中、テキサス州には企業立地としての優位性が高まっており、多くの企業と人材が流入してきた。近年もヒューレット・パッカード、オラクル、テスラ等がカリフォルニア州からテキサス州へと本社を移転する事例が相次いでおり、今後もこれに関連した人口流入、不動産投資の拡大が見込まれる。
DX進展で投資トレンドの変化が加速
ところで、2000年代迄は米国における主要な投資対象はオフィスであったが、価格高騰やオフィス賃貸需要の伸び悩みでオフィスの取引額は頭打ちとなり、2015年以降は賃貸住宅が最大となった。また、物流施設の取引額が本格的に拡大し始めたのは2016年以降のことであるが、COVID-19後の流通市場におけるEコマース拡大により物流施設への投資が急速に拡大し、足元ではオフィスの取引額を上回る。実はこうした投資トレンドの変化は、いずれも従前から存在していたものだが、様々な場面でデジタルトランスフォーメーション(DX)が関連しており、COVID-19蔓延後にトレンド変化を加速させた側面がある。
例えば、テレワークやハイブリットワークの普及で都心部よりも郊外に多い低層型の賃貸住宅(ガーデンタイプ)や郊外立地のオフィスへの投資需要が伸びており、いずれのタイプも都市部の取引額の2倍程度となった。また、流通市場におけるEコマース拡大が物流施設への投資を加速させたように、商業施設の物流拠点化(ネット注文のピックアップポイント、ネット販売のみを扱うダークストア、レジのない無人店舗等)も進展しており、郊外居住人口の増加と共に郊外立地のショッピングセンターを中心に取引量が回復しつつある。つまり、物件タイプ、立地、構造等のハード面や過去のトラックレコードに加え、DX進展で加速する趨勢の変化を見据え、投資機会をより慎重に選別すべきタイミングにあると言えよう。
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