国内不動産市場の見通し ~アベノミクスの後押しもあり期待利回り低下が進む見通し。出口タイミングの想定が重要に~
株式会社三井住友トラスト基礎研究所は、国内主要都市の不動産市場の見通しを示した不動産マーケットリサーチレポート※の最新号(2013年4月時点調査)をとりまとめました。今回の改定で、アベノミクスの足元の影響と当面の良好な経済・投資環境の見通しを踏まえ、2015年頃までの不動産市場の見通しをやや上方修正しました。一方で、二度の消費増税後の景気減速や緩和的な金融環境の後の金利上昇を考慮した出口タイミングの想定が市場関係者にとって重要になってきたと考えています。本稿では、その概要を示します。 |
足元の不動産価格の上昇
2013年に入り、不動産価格の上昇が顕著になっています。その要因は、直接還元法で言えば不動産収益の増加によるものではなく、期待利回りの低下によるものです。「大胆な金融緩和」でリスクフリーレートが低く抑えられたまま、リスクプレミアムが縮小している状況と考えられます。賃貸収益の成長期待はまださほど折り込まれていないと考えられますが、円高修正が進んだことに加え、今後「民間投資を喚起する成長戦略」の効果で賃貸需要の増加が本格化し、賃貸収益の成長期待が利回りの低下に折り込まれるようになり、期待利回りの低下が一層進むと考えられます。
短期的な見通し(2015年頃まで)
具体的に投資マーケットを見てみると、リスク回避的な投資家による不動産投資ニーズの高まりは継続しています。債券利回りの反転上昇リスクや株式のダウンサイドリスクを考慮して、オルタナティブ投資の増加傾向が継続しており、安定したインカムを志向する投資家の不動産投資ニーズの高まりも継続しています。海外の機関投資家は、欧州向けエクスポージャーを縮小し、アジアへ投資資金をシフトさせる傾向にありますが、そのアジアでは中国経済に減速感が出てきていることから、相対的にオーストラリアと日本が存在感を高めており、日本は「アジアにおけるコア市場」として再評価されてきています。不動産市場の規模の大きさ、それに起因する不動産市場の安定性と流動性、そして今底打ちを迎え今後回復に向かっていく相対的な投資タイミングの良さ、円高修正等によって、海外投資資金の流入が期待できると考えられます。一方、国内の機関投資家においても、私募REITに投資する企業年金・地銀が増加しており、運用実績を蓄積していけば一層の投資が期待できると考えられます。このような投資環境から、当面はリスクプレミアムの縮小が続くと考えられます。
次に、不動産ファンダメンタルズですが、リーマンショック、東日本大震災、欧州債務危機といった需要縮小要因が続き、加えて東京のオフィス市場では2012年の大量供給も相俟って厳しい賃貸市況が続いてきましたが、ようやく需給バランスの好転が見えてきたところで政権が交代し、需要回復期待が強まってきました。今後、短期的には供給抑制が見えており、一方で需要については、増加のエンジンが、館内増床やオフィスエリアの外から内への移転、自社ビルから賃貸ビルへのテナント移転であったものから、企業業績の回復に伴う拡張移転(本質的な需要増加)へと変化していくと考えられ、東京のオフィス賃料は2014年、2015年と上昇を続けると予想されます。賃貸収益の成長期待は、次第に期待利回りに折り込まれるようになると考えられます。
このように、リスクプレミアムの縮小に賃貸収益の成長期待が加わり、期待利回りの一層の低下(不動産価格の上昇)が進むと考えられます。
中期的な見通し(2016~2017年頃)
2016年以降は、少し状況が変化する可能性があります。まず、二度の消費増税後の景気減速で、賃貸需要が鈍化する可能性があります。不動産賃貸市場は、需要と供給のサイクルにずれが生じやすく(需要は景気とのタイムラグは小さいが、供給は計画から完成までに時間がかかる)、2016年以降には、それ以前の好景気と不動産市況の回復で立ち上がった開発プロジェクトが竣工を迎えて供給増になると考えられます。需要減と供給増が重なることで、それまで回復を続けてきた需給バランスのトレンドに変化が生じ、賃料は2016年頃にピークを迎える(さらなる賃料上昇期待が持てなくなる)可能性があります。
また、この頃には、一定の物価上昇が実現して金融緩和の縮小を想定した動きが出てくる可能性があります。短期金利に先行して長期金利が上昇すれば、期待利回りの押し上げ要因となります。
このように、不動産ファンダメンタルズ、投資マーケットの両面から期待利回りの一層の低下が難しくなり、期待利回りは一度底を付ける可能性があると考えています。不動産投資の出口タイミングの想定が重要になってきたと言えるでしょう。
● 詳しい内容は、三井住友トラスト基礎研究所発行「不動産マーケットリサーチレポート 2013年4月時点調査」(有償)に記載しています。ご関心のある方は、不動産マーケットリサーチレポートご案内のページをご覧ください。