博物館・美術館運営における民間活用(上)
~収益構造にみる各施設の運営状況~
要約・概要
博物館・美術館の運営において、資金調達は重要な課題である。博物館・美術館は収益のみを追求する施設ではないため、何らかの支援が必要となる。独立行政法人国立美術館(以下、「(独)国立美術館」)が運営する施設をみても、公的支援への依存度は英国・米国に比べて高い。英国・米国ほど民間からの寄附が社会に根付いていないことが理由として挙げられるが、入場料収入以外の資金調達は限定的となっている。
一方で、(独)国立美術館が運営する施設の1つである、国立新美術館の公的支援は4割を切っており、自己収入の割合は37.2%と高い。これは、美術団体等へ展示スペースを提供していることに起因する。また、(独)国立美術館では、クラウドファンディングによるプロジェクトを実施するなど、新たな試みを行っている。 地方独立行政法人大阪市博物館機構が管理する大阪中之島美術館では、運営手法として、民間の裁量範囲が広いコンセッション方式が採用されており、その取り組みが注目される。
英国のデジタル・文化・メディア・スポーツ省(Department for Digital, Culture, Media and Sport:DCMS)が管轄する博物館・美術館では、ばらつきがあるものの、公的支援の割合が低い施設も多い。メンバーシップ収入やスポンサー収入・寄附を集めるため、例えば、大英博物館では、オーダーメイドの舞台裏ツアーや美術館のイベント利用など、様々な特典が設けられている。
米国におけるメトロポリタン美術館は、公立美術館ではないが、ニューヨーク市が、5番街にある本館の土地・建物を所有し、施設の維持管理費を一部負担する。その意味で、やや公共よりの美術館であるといえるが、ニューヨーク市からの助成は7%台と少ない。代わりに、小売、レストラン運営収入やメンバーシップ収入が重要な収入源となっている。また、他の文化施設とも連携し、中学校へ科学教育プログラムの支援を行うなど、地域に根付く活動も積極的に行っている。
日本でもこうした公的支援以外の資金調達手段を考えることが、今後の民間の活用検討の入口になるだろう。
(本レポートは、一般社団法人不動産証券化協会「ARES不動産証券化ジャーナルVol.56」掲載論文を基に、加筆・修正したものである。)