不動産市場・ショートレポート(7回シリーズ)
コロナ禍収束に向けた不動産市場の動き①/賃貸市場(オフィス)
出社率はコロナ収束後も元には戻らない可能性が高い
コロナ禍でテレワークの導入が急速に進み、出社率はコロナ前に比べ大きく低下した。森ビル「2020年 東京23区オフィスニーズに関する調査」によると、平均出社率はコロナ禍以前では95%であったのに対し、コロナ禍最中の2020年末時点では65%に低下している。コロナの長期化によりテレワークは一定程度定着するとみられ、コロナ収束後の出社率はコロナ禍から高まるものの76%に留まると予想されている。
出社率の低下は、①ワーカー1人あたりのオフィス面積の縮小、②フレキシブルオフィスの利用拡大をもたらすと考えられる。
出社率の低下がもたらす変化① -ワーカー1人あたりのオフィス面積の縮小-
オフィス需要(企業が利用するオフィス面積)は、「オフィスワーカー数」と「ワーカー1人あたりオフィス面積」の掛け算で決まる。コロナ前から、フリーアドレス(社員が1人1席の固定デスクを持たずに自由にデスクを選択するレイアウト)や在宅勤務制度の導入などにより、1人あたりオフィス面積の縮小は緩やかに進んでいた。
コロナによる出社率の低下は、その傾向を一層強く押し進めると考えられる。将来の人員増を見込んで余裕のあるオフィス面積を構える企業は少なくなり、ワーカー数よりも少ない座席数しか用意しない企業が増えるであろう。このようなワーカー1人あたりのオフィス面積の縮小により、今後のオフィス市場は、オフィス需要が増加するものの力強さを欠く市場、空室率が低下しづらい市場に変化すると考えられる。そして、企業には、ワーカーが出社したくなるアメニティと生産性の高さを備えたオフィスが求められるであろう。
出社率の低下がもたらす変化② -フレキシブルオフィスの利用拡大-
フレキシブルオフィスとは、賃貸借契約を締結せず短期の利用契約により利用できるオフィスのことで、内装や什器、通信設備が予め用意されたオフィスである。これには、シェアオフィス・コワーキングオフィスといったデスク等を共用するタイプと、レンタルオフィス・サービスオフィスといったデスク等を専用するタイプがある。
フレキシブルオフィスは、コロナ前までは、営業職などが外出時の隙間時間を活用して業務を行うスペースや、スタートアップ企業のオフィスとして、都心で増加していた。しかし2020年には、テレワークが求められる中で、主に自宅では業務が難しいワーカー向けに、郊外でフレキシブルオフィスが増加した。
フレキシブルオフィスの変化は郊外化に留まらない。都心では、拠点オフィスへの出社率が低下したことで、ワーカー数よりも少ない座席数で足りるようになり、フレキシブルオフィスを活用してオフィス費用の合理化を図る動きが出てきた。フレキシブルオフィス事業者も、デスク数以上の人数で利用可能なプランを強化しており、利用を促進している。フレキシブルオフィスであれば、出社率がさらに変動したときには、共用デスクスペースを活用したり、専用デスクスペースを拡大・縮小することで柔軟に対応できる。大手IT企業では、本社オフィスを賃貸ビルからフレキシブルオフィスへ移転し、席数を移転前の5割未満に削減する事例も複数見られる。フレキシブルオフィス市場はコロナを通じて一層拡大していくと考えられる。