不動産データマネジメント
 -不動産データを「面データ」で管理する-

研究統括部 副主任研究員   川村 康人

 不動産データというと、建物・敷地に関する属性情報であったり、所有者・売買価格に関する履歴情報であったり、外観等を写真に収めた画像情報など、様々な種類の情報が存在する。地理情報システム(GIS)のユーザーであれば、地理座標を持った点・線・面のデータを想像するかもしれない。
 筆者もGISユーザーの一人であり、本コラムでは、不動産データを「面データ」で管理することを例に、機械学習時代を踏まえたデータの管理方法や、将来の可能性について考えてみたい。

点データ、線データ、面データの違い

 GISで扱う情報の種類には、点(ポイント)データ、線(ポリライン)データ、面(ポリゴン)データといった種類がある。たとえば、鉄道駅の出口は点データで管理され、路線は線データで管理され、駅のホームの形状は面データで管理される、といった要領である。

 不動産の所在地を表す住所情報をもとに、個々の「点」の地理座標を得ることができれば、鉄道駅の点データと組み合わせて、最寄りの鉄道駅までのアクセシビリティなどが計測でき、不動産価格への影響度などを分析することができるだろう。

 ここで、不動産の建物・敷地や街区に関する位置情報が、「点データ」だけでなく、「面データ」もあわせて管理されていれば、街区内の面積シェアや、街区内の権利形態の分散度合いといった指標が計算でき、それらの要因が不動産価格へ与える影響度を分析することも可能となる。

 これらのデータは通常は大容量のものであり、10年前であれば、いわゆる「モンスター級のPC」でないと十分に処理することができなかったようなデータである。ところが、64ビット機のPC・ソフトウェアが普及した2016年現在では、大容量の物理メモリの搭載によって、以前では想像がつかないほど快適に、これらのデータを扱うことができる時代である。

空間データと機械学習の親和性?

 さて、コンピュータの進化によって大容量データが容易に扱えるようになった時代を踏まえ、今後、不動産が「点データ」だけでなく、「面データ」によっても管理されることが当たり前の世の中になった場合に、どのような広がりが期待できるだろうか。

 前述のような、街区内の面積シェアなどは、数十万件~数百万件のデータであっても、簡単な四則演算によって短時間で計算可能な指標であるが、不動産の前面道路幅員の計測や、街区内における立地分類、建物の平面形状の分類などは、高度なロジックや豊富な追加データを必要とするか、あるいは一定のロジックによる判別が困難に直面するケースが考えられる。

 一定のロジックによる判別が困難な分類作業は、時間さえかければ人間が目視により分類することも不可能ではないが、数百万件のデータともなると、一定の規模・予算を持った組織でない限り、人海戦術によるデータ処理は困難と考えられる。

 このような問題については、機械学習技術を活用することで、データ処理の効率性を高めることが可能かもしれない。不動産が「点データ」ではなく「面データ」で管理されているのであれば、不動産やその周辺の立地情報を、XY平面上(あるいはXYZ空間上)にプロットし、そこから特徴量を抽出し、分類作業を実施するという着想である。

 以下の図表は、深層学習(ディープラーニング)によってある地域の建物立地分類データを学習させたモデルを用いて、東京都中央区銀座地域の立地分類を行った分析例である。同様の分類作業は、他の地域における数百万件のデータにも応用できるため、これまで、限りある労働資源のもとでは非現実的と考えられていたデータ処理作業が、モデルの精度次第では人間と同程度のレベルで、かつきわめて低いコストで実施できる可能性がある。

不動産データをどのように管理・蓄積したらよいか

 このような分析手法は、不動産の空間データにとどまらず、建物の管理状況やデザイン性など、様々な分野で活用できる可能性があるものの、分析を行うには、とにもかくにもデータの蓄積が肝である。データとは、整備の仕方次第で宝の山にもなれば、ゴミの山にもなるものである。料理でたとえるならば、「調理の仕方」を踏まえた「材料準備」を指示できる人間が、組織のデータマネジメントを担うことが望ましいだろう。人工知能の活用による夢物語を描く発想力ももちろん重要であるが、地道な努力によって、日々蓄積されるデータをゴミの山ではなく宝の山にできる組織こそ、将来、人工知能の活用によって生産性を大幅に向上できる可能性が高いと、筆者は予想する。


図表 東京都中央区銀座地域の立地分類に関する分析例

東京都中央区銀座地域の立地分類に関する分析例

出所)国土地理院「基盤地図情報(建築物の外周線、道路縁)」をもとに三井住友トラスト基礎研究所作成