投資対象としての系統用蓄電池
~英国の事例にみる系統用蓄電池ファンドのリスク・リターン特性~

PPP・インフラ投資調査部 上席主任研究員    浅川 博人

要約・概要

  • 日本国内での再生可能エネルギー(再エネ)の急速な普及は脱炭素化の原動力である一方、出力抑制や節電要請の頻発などの問題も引き起こしている。この問題解決には電力の柔軟な需給調整が必要であり、その有力な手段の一つとして、系統用蓄電池の本格的な導入が期待されている。

  • 系統用蓄電池の本格的な導入には民間資金の活用が欠かせない。再エネとはビジネスモデルが異なる系統用蓄電池事業を投資対象と捉えた場合の特性を、本格的導入が進む英国における上場ファンドの事例をもとに整理した。

  • 再エネと異なり、系統用蓄電池事業の収入構成は卸電力市場・需給調整市場・容量市場を対象とした市場取引によるものが中心で、長期契約による固定収入の比率は小さい。そのため、一般的に系統用蓄電池の事業リスクは再エネよりも高いと考えられる。

  • 英国の証券市場において、系統用蓄電池ファンドは2018年の上場以来、市場インデックスおよび再エネと比較して高いリターンを挙げており、規模も成長している。原資産に相当する系統用蓄電池事業の投資機会と収益機会の増加がその背景にあるとみられる。一方で、継続的にファンド段階での借入(レバレッジ)が活用される再エネファンドに対し、よりリスクが高い事業に投資する系統用蓄電池ファンドではレバレッジがほとんど活用されていない。系統用蓄電池ファンドでは、投資対象事業のリスクの高さに合わせた慎重な運用方針が採られている。

  • 英国の事例にもとづけば、収益性が安定しているものの有利な投資機会の発掘が容易でない再エネ事業と、収益の安定性は低いものの投資機会が増加している系統用蓄電池事業の間には、リスク・リターン上の補完関係を見いだしうる。日本での導入にあたっては、こうした再エネと系統用蓄電池のリスク・リターンの特性の違いに着目し、両者を統合した事業・投資ポートフォリオへ組み込み、収益の安定性と成長性のバランスをとること等が検討できる。また、系統用蓄電池の特性を広く説明し、市場および社会全体の理解を深めることが重要である。

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