もう一つの「空き○○問題」

投資調査第1部 上席主任研究員     福島 隆則

 不動産の世界で「空き○○問題」と言えば、普通はまず「空き家問題」を思い浮かべるだろう。しかし、実はもう一つ、円滑な不動産(土地)取引を妨げている「空き○○問題」がある。それは「空き工場問題」である。必ずしも工場に限った話ではないが、土壌汚染のおそれのある土地では、汚染除去のための高額な対策費用が障害となり、売買をあきらめ、放置されているケースが少なくない。土地取引における「パンドラの箱」のように扱われてきた問題である。

 この問題は、我が国の土壌汚染への実際の対策が、土地の利用形態に関わらず掘削除去という一律かつ過大なものに偏っていることに起因している。海外では、土地の利用形態に応じた土壌浄化基準が設けられており、自然由来の土壌汚染は許容されていたり、産業用地や商業用地では舗装などを前提に緩和した基準が適用されていたりするなど、土地の有効活用が進みやすいものとなっている。

 こうした問題意識を背景に、土地の有効利用と過度なコストをかけない適切な環境管理の推進を趣旨に掲げた「一般社団法人 土地再生推進協会」が、今年2月に設立された。その最も中心となる事業は、「土壌汚染の状況の認証」である。この事業は、建物におけるCASBEEや米国のLEEDのような環境認証と同様に、対象となる土地に汚染がないこと(プラチナ)、軽微な汚染であっても敷地外の漏えいや健康被害のおそれがないこと(ゴールド、シルバー、ブロンズ)を第三者の専門家として認証するものである。また、認証された土地の汚染に起因する第三者の健康被害の補償には、指定代理店を通じた環境汚染賠償責任保険が提供される。さらに、土地の賃貸収入などを通じて実現可能な土壌汚染対策を含む事業性評価を行い、限られた資金で土地を有効利用する提案も行う。

 これらの仕組みが活用できると、土地に関連した新しい投融資の形も見えてくる。1つは、「土壌汚染浄化ファンド」である。何らかの措置が必要な汚染地を買い取り、コストを抑えながら将来の土地利用に応じたいずれかの「認証」が得られるまでの対策を施し、売却するファンドで、汚染が原因で放置されている土地の有効利用を促進するものと言えよう。実際、米国にはブラウンフィールド(土壌汚染地)を専門に取り扱うファンドもあり、投資家などからの一定のニーズを集めている。さらに、CASBEEやLEEDと組み合わせれば、土地・建物全体としての環境不動産を対象とすることもできるだろう。

 ほかにも、土壌汚染対策を対象とした「グリーンボンド」の発行が考えられる。グリーンボンドとは、調達資金を環境問題などに活用することを前提に発行される債券である。例えば、土壌汚染地を抱える自治体がこうした債券を発行できるようになれば、投資家の注目を集めるのではないだろうか。土地の有効利用を通じた地域経済の発展は、「地方創生」の趣旨にも合致するものと言えるだろう。

 政策との合致という意味では、最後にもう一つ、この土壌汚染に関する問題は、「『日本再興戦略』改訂2015」にも取り上げられていることに言及しておきたい。こうしたことは、この問題への取組が経済的・社会的意義の大きいものであることを、政府も認識している証左と言えるだろう。もう一つの「空き○○問題」からも、目が離せなくなってきた。

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