今の成長<将来の安定~金融緩和で進むJ-REITの将来リスクへの備え

REIT投資顧問部 主任研究員   堀 明希子

 黒田日銀による金融緩和策が4年目に入った。この間、不動産市況回復期待の高まりや相対的な利回り魅力が選好され、J-REIT市場には資金流入が継続した。借入コストも下がることでJ-REITの資金調達コストは低下が進み、不動産価格の上昇に伴い、J-REITが保有する資産の価格は大きく回復している。今回のマイナス金利導入決定後も、同様の期待がJ-REITには集まっている。

 こうした環境変化の下で、各リートはいかに運用してきたかをあらためて見ておきたい。

 まず、物件取得は収益性を意識したスタンスで行われ、今でもそれは継続している。不動産売買市場が過熱するなかで一定の利回り水準を確保することは非常に困難で、個別には強い賃料上昇期待と低金利を前提とした強気の取得もみられる。ただ、そうした取得も一部であって、全体でみれば物件の組み合わせで保有資産の収益性を維持、あるいは大きく損ねないといった取得方針を変えていない。既に十分な資産規模を有するリートでは特に買い急がず、厳選投資の姿勢が貫かれている。また、ブリッジファンドの活用や相互売買など取得の工夫はみられるが、金融危機の教訓からフォワードコミットメントや未稼働・低稼働物件の取得などリスクの高い取得はあまり見受けられない。

 逆に、物件売却の好機と捉え、単純な規模拡大ではなく、物件の入替が顕著に増えている。直近の事例で言えば、商業リートが郊外型のGMSを売却して都市型商業施設を取得し、総合型リートがオフィスと物流を売却してホテルを取得したほか、オフィス特化リートが築古物件から築浅物件へ入替を行った。入替前後で収益性が即改善しない場合もあるが、いずれの場合もポートフォリオの質強化を企図している。また、物件売却で得た売却益はそのまま分配せず、分配金の安定化に活用する目的で圧縮積立金として内部留保しており、従来合併リートの特権であった内部留保の確保はそれ以外のリートにも広がっている。その他、売却益を活用した動きとして、併せて含み損を抱える物件も売却したり、保有物件の大規模リニューアルに伴う一時的な費用への充当に活用したりするリートもある。

 一方、財務運営に関しても、多くのリートが負債の長期化、金利の固定化を続け、LTVをより保守的な水準へと引き下げている。

 このように、J-REITは一連の金融緩和による資金調達コスト低下と不動産価格上昇の恩恵を、短期的な分配金成長よりはむしろ将来的な分配金の更なる安定化につなげようとしていることがわかる。そもそも長期的な投資は、株や金利の今の動きを反映して簡単に動くものではない。10年、20年と長いスパンで投資するJ-REITも同じである。それに、J-REITにとって不動産市況や金融環境の変化に対する危機意識は非常に根強いものがあるだろう。新規のリートがだいぶ増えたとはいえ、いまだ中心を成すのは金融危機前後の激変を経験してきたリートである。

 したがって、今回のマイナス金利導入を受けても、各リートの慎重スタンスは変わらないだろうし、将来リスクへの備えを続けるチャンスと捉えて引き続き慎重スタンスを崩さない運用を期待している。

(株式会社不動産経済研究所「不動産経済ファンドレビュー 2016.4.25 No.391」 寄稿)

関連する分野・テーマをもっと読む