進むJ-REITの新陳代謝
~30兆円に向けた成長加速への足固め進む

REIT投資顧問部 主任研究員   堀 明希子

 J-REITの資産規模は2017年で年間1.0兆円増加と、前年の1.5兆円増加から拡大ペースが大きく鈍化している。不動産価格が上昇するなか、J-REITの不動産取得先はスポンサー関連への集中度がさらに増しており、取得利回りをみても厳しい取得環境の継続がうかがわれる。加えて、2017年はこれまで市場を支えてきた投資信託が資金流出に転じたことで、投資口価格が下落し、J-REITの不動産取得のハードルは以前よりも上がった。

 規模拡大のペースダウンは、取得難もあるが、売却好機を捉えた不動産売却の急増も影響している。2017年に発表されたJ-REITの不動産売却額は0.4兆円超と、前年比で倍増、年間では過去最高額となった。特に、年末に相次いで発表されたオフィスリートの資産入替は旗艦物件の売却を含む大規模な入替であったが、低収益物件の売却に踏み切ったことでポートフォリオ利回りの向上に寄与し、併せてNAVの増大、築年の若返り、物件集中リスクの緩和、売却益を活用した内部留保の蓄積と、多くの改善効果をもたらした。また、規模拡大途上の上場後間もないリートであっても、資産入替でリスク分散や収益性向上、売却益の投資主還元を行うなど、投資口価格の向上を狙って戦略的に資産入替を活用する事例が増えている。当面不動産価格は高止まりが継続すると予想されるため、収益性や資産価値向上を促す有効な外部成長手段として資産入替を選択するリートは続くものと思われる。

 一方、物流施設やホテルは順調に資産規模を積み上げており、両用途の資産規模は2017年で年間計0.6兆円弱増加した。物流施設については、2018年に入っても物流リートや総合型リートによる取得が勢いづいている。資産規模は間もなく住宅と並びそうだ。ホテルについては、スポンサーの開発状況や取得機会の拡大を理由に、複数のリートが新たに投資対象へ加える動きがある。長期的な需要拡大が期待される両分野への投資は今後も拡大が予想される。
 同じく需要拡大が期待されるヘルスケアについても、新たな動きがみられた。1つは、共通のスポンサー傘下の住宅リートと合併し、成長機会の確保のために複合リートへの転換を図る動き。もう1つは、初の病院不動産の取得である。ヘルスケアは高齢化による成長市場と期待されながら、シニア住宅の取得環境が厳しく、ヘルスケアリートの投資口価格の低迷もあって長らく膠着状態が続いたが、合併や新たな用途への投資といった動きが投資口価格の改善につながっている。

 オフィス、住宅、商業施設といった従来からの用途では、資産入替による"新陳代謝"によってポートフォリオの質向上が進んでいる。また、物流施設やホテルは引き続き拡大が見込まれる状況で、ヘルスケアにも拡大に向けた期待の芽が出てきた。J-REITによる海外不動産投資の環境整備も進行中であり、J-REIT全体が成長分野へシフトしていく"新陳代謝"は今後も継続が予想される。
 政府は不動産投資市場の成長目標として2020年頃までにリート等で資産総額約30兆円を掲げている。現在、J-REITと私募REITを合わせた資産規模は約19兆円。足固めは着実に整いつつあり、今後の成長加速に期待が高まる。

(株式会社不動産経済研究所「不動産経済ファンドレビュー 2018.3.25 No.458」 寄稿)

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