15周年を迎えるJ-REIT市場にパラダイムシフトの兆し

REIT投資顧問部 兼 海外市場調査部 副主任研究員   風岡 茜

 J-REITは今年9月に15周年を迎える。J-REITは、100兆円の市場規模を誇るUS-REITに次ぐ世界2位のREIT市場となり、資産規模も約15兆円に達した。伝統的な不動産に加え、物流施設、ホテル、ヘルスケア施設等への投資も拡充するなど、投資対象の多様化も米国ほどではないが進んできている。なお、米国には、インフラ(電波塔など)、森林、データセンターの他、カジノ、ゴルフコース、刑務所、学生寮、戸建住宅、農地などの特殊資産に投資するREITもある。

 US-REITも初めから順風満帆だった訳ではない。1960年の市場創設から50余年を通じて、成長、衰退、制度改正、回復といったサイクルを幾度も経験する中で、投資対象が多様化し、事業会社のREITへの転換やREITによるM&Aを通じて、主要REITが大型化してきた経緯がある。US-REITの時価総額ランキングでは、首位のサイモン・プロパティ6.6兆円(郊外モール型商業施設REIT)を筆頭に、トップ4はいずれも3兆円超、それ以下も13位まで2兆円台と、主要REITの規模が大きい。業種別には、郊外モール、電波塔、倉庫、森林、住宅、ヘルスケア施設、物流施設に投資するREITがトップ10にランクインしている。
 外部運用型のJ-REITとは異なり、US-REITにはREIT自身が不動産運用を行う内部運用が認められている。また、事業会社がREITに転換する仕組みがあり、近年では森林や電波塔を所有・運営する事業者がREITに転換した。例えば、森林REIT最大手のウェアーハウザーは2010年にREITに転換した。また、インフラの2大REITであるアメリカン・タワーとクラウン・キャッスルは、ともに米国の代表的な電波塔の所有・運営企業だが、それぞれ2012年、2014年にREITに転換している。

 一方、最近のJ-REITでは、金融危機後の回復過程に多くみられた信用力・資金調達力向上等を目的とした合併とは異なり、規模拡大と成長目的の合併が増えており、総合型REITが大型化してきている。2015年10月に野村不動産系のスポンサーが運用する3REIT(オフィスREIT、住宅REIT、複合型(物流・商業)REIT)の合併が成立した。同REITは総合型REITとしてはJ-REIT最大の資産規模だが、さらに他の総合型(オフィス・商業・住宅)REITとの合併も発表しており、合併成立後の資産規模はJ-REIT第2位となる見込みである。また、大和ハウス工業系のスポンサーが運用する2REIT(住宅REITと複合型(商業・物流)REIT)も合併する予定で、合併成立後の資産規模は総合型REITで第4位となる見込みである。

 政府や業界団体は、東京夏期五輪が開催される2020年頃までにREIT等の資産規模を約30兆円に倍増させる成長目標を掲げている。国土交通省の不動産投資市場政策懇談会における提言では、同成長目標を実現するための具体的取組として、4項目が挙げられている。このうち、「成長分野における不動産投資市場の拡大と国際競争力の強化」には、「成長分野(観光、物流、ヘルスケア等)に係るリート市場機能の強化(組入れ支援、情報の見える化)」や「リートによる海外不動産取得の円滑化等に関する検討」等が盛り込まれている。このような動きからも、J-REITのオペレーショナルアセットへの投資拡充や、海外不動産投資の拡充は、中長期的には自然の流れと考えられる。

 US-REITは投資家の求める高い成長性を実現することで成長してきたが、最近はJ-REITでも「安定的なインカム」という魅力に加え、「成長性」も重視されるようになっている。近年、旺盛なインバウンド需要を背景に内部成長と外部成長をともに実現しやすいホテルREITに注目が集まっている。また、総合型への転換を通じた規模拡大や成長性を重視した合併が続いており、J-REIT市場ひいてはグローバルREIT市場におけるポジショニングを意識した競争力向上への意欲もみられる。今後も、各社がグローバル市場にも訴求できる「成長戦略」を重視する動きは加速することとなろう。

"The finance"寄稿原稿を一部加筆修正 https://thefinance.jp/strategy/160630

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・(リサーチカフェ)今の成長<将来の安定~金融緩和で進むJ-REITの将来リスクへの備え (2016年5月9日)

・(リサーチカフェ)米国ヘルスケアREIT市場の成長に学ぶ (2016年2月17日)

・金融庁の委託調査(金融庁のウェブサイトにリンクします「海外におけるヘルスケアリートに関する調査研究」報告書  (2016年1月26日公表)

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