豪州・欧州REIT市場の最新動向-データセンターへの期待高まる豪州REIT

海外市場調査部 主任研究員   風岡 茜

1.グローバルREIT市場のパフォーマンス
 2024年のグローバルREIT(S&P Global REIT)のトータルリターンは+3.9%となり、2023年(+11.5%)からプラスを維持も、金利上昇による不動産投資市場低迷の影響が強く、グローバル株式(MSCI ACWI、2023年+22.2%、2024年+20.7%)を大きく下回った。
 エリア別のリターンを見ると、豪州、米国、フランスがグローバル全体を上回った一方、香港、英国、シンガポール、日本はマイナスとなった(図表参照)。豪州と米国ではデータセンターが好調となり、米国ではこのほかヘルスケア施設も好感され、底打ちが期待されるオフィスも反発した。また、フランスは商業施設が好調に推移した。一方、香港は、主要REITで保有オフィス評価額の減少が続き、株価が大きく下落している。英国、シンガポール、日本は幅広いセクターでマイナスとなった。投資家のリスク回避姿勢が強まる中で物流施設が軟調となり、英国は物流施設REITの買収を巡って株価を大きく下げ、シンガポールでもグローバルや中国本土の物流施設に投資するREITが不調となった。
 REIT市場は、米国(時価総額224兆円)、豪州(同17兆円)、日本(同14兆円)、英国(同10兆円)の順に大きい(2024年末)。以降では、前回取り上げた米国に続き、豪州と英国・欧州のREITをとりあげる。なお、米国については「米国REITの最新動向」、香港やシンガポールについては「アジアREITの最新動向」を参照されたい。

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2.データセンターが注目されるA-REIT市場
 豪州REIT(A-REIT)のトータルリターンは、2024年は+17.6%とグローバルの中で最も上昇し、S&P/ASX 300指数の11セクターでも通信、金融、一般消費財に次いで高いリターンとなった。時価総額首位の物流施設REITであるGoodman Group(GMG)が2025年にデータセンターの開発を多く予定していることが好感され、同+40.9%となったことがA-REIT全体の上昇に大きく影響した。セクター別に見ると、GMGが属する物流施設(同+39.6%)がA-REIT全体を上回った一方、商業施設(同+17.9%)、特殊用途(同-2.1%)、オフィス(同-7.3%)はいずれもA-REIT全体を下回った。GMGはA-REIT時価総額の38%を占める大型REITで、これに時価総額2位(商業施設特化Scentre Group)と3位(総合型Stockland)を含む上位3社のシェアが55%に達する。このようにA-REITは寡占的な市場となっていることから、上位3社がA-REITのパフォーマンスに与える影響は非常に大きい。
 上位3社以外のREITでは、データセンターREITの上場を発表したHMC Capital(HMC)が同+60.1%と大きく伸びた。HMCは豪州のデータセンター事業者・Global Switch AustraliaとIseekの買収に加え、北米のデータセンター3件も取得し、データセンターへのエクスポージャーを高めている。またHMCは、これらをシードアセットとして豪州と北米のデータセンターに投資するDigiCo Infrastructure REIT(DigiCo REIT)を2024年12月12日に豪州証券取引所(ASX)に上場させ、市場で注目された。また、賃貸住宅やシニア向けライフスタイルコミュニティ、休暇リゾート施設に投資するAspen Groupも同+45.6%と好調となった。
 A-REITは2024年12月末で44社となり、2023年末から2社が上場廃止、1社が新規上場した(上記DigiCo REIT)。上場廃止した2社はいずれも小規模REITであった。一社目は、米国の学生住宅に投資するUS Student Housing REIT(USQ)で、USQは2022年3月にASXに上場したが2024年1月に上場を廃止し、私募ファンドとしてUS Student Housing Growth & Income Fundに名称変更した。二社目は、商業施設特化のNewmark Property REIT(NPR)で、NPRは2021年にASXに上場したが、同業中規模のBWP Trust(BWP)に吸収合併され2024年5月に上場を廃止した。BWPはDIY用品(日曜大工やガーデニング用品)を扱っている豪州最大規模のホームセンター・Bunnings Warehouseを75物件保有しており、同じくBunnings Warehouseを主要テナントとするNPRを規模拡大のために買収した。

3.再編進む英国REIT、商業が好調なフランスREIT
 2024年の欧州REITトータルリターンは-5.5%であった。商業施設が好調となったフランスが同+4.5%と欧州全体を上回った一方、英国は長期金利上昇の影響を受けて9月中旬以降に総じて軟調となった中で、物流施設やセルフストレージの下落が目立ち、同-11.9%と低迷した。欧州先進国REITは9カ国で194社上場しており、2024年9月末の時価総額は計28.4兆円で、このうち7割を英国とフランスが占める。英国REITは45社で、合併に伴う上場廃止などで2023年末から4社減少。フランスREITは28社で前年末から変化ない。
 英国ではREITの再編が相次いだ。2024年3月には、分散型(路面店、物流施設)REITのLondonMetric Propertyが、同じく分散型でヘルスケア施設、格安ホテル、テーマパーク、食料品店、産業施設、パブ(ホテル)、教育施設に投資するLXi REITを買収した。5月には、物流施設REITのTritax Big Box REITが分散型REIT のUK Commercial Property REITを買収。9月には、商業施設特化のNewRiver REITが同業でコミュニティセンター6件を保有するCapital & Regional Plcの買収を発表した。また、10月以降は、欧州の物流施設に投資する英国REITのTritax EuroBox(EBOX)買収を巡って、英国REITのSEGROとカナダの運用会社Brookfield Asset Managementで入札合戦となったが、BrookfieldがEBOX買収後にポートフォリオの30%をSEGROに売却する形で決着した。一連の買収騒動でSEGROの株価は大きく下落し、同社は英国REIT最大規模であることから、英国REITのパフォーマンスを押し下げた。
 フランスでは、2023年に続いて商業施設REITが好調に推移し、2024年はKlépierreが+11.7%、Unibail-Rodamco-Westfield(URW)が+8.7%となった。Klépierreは資産入替により収益改善を図っており、URWもテナント売上と客足の増加で既存物件が増収となり、資産売却で負債削減も進んでいる。
 これ以外のREITの取引では、英国大学寮(英Unite Students)やホテル(英Landsec、仏Covivio)などでポートフォリオの売却が見られた。

4.豪州REITはDC投資、英国REITは再編動向に注目
 A-REITは、伝統的資産の他、ヘルスケア施設、ホテル、教育施設、農地など多様な資産に投資している一方で、主要REITの大型化で寡占度が年々高まっており、物流施設、商業施設、分散型の3セクターへの集中度が高まっている。このような市場において、開発や特化型REITの上場が予定されているデータセンターは、今後注目されるセクターとなりそうだ。一方、英国では、引き続き分散型の再編とセクター内での大型化が今後も進む見込みである。また、フランスでは、主力の商業施設が最悪期を脱したとみられ、今後より安定的な運用実績が見込まれる。

(株式会社日本金融通信社「ニッキン投信情報 2024年12月16日号」掲載原稿を一部修正)
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