海外REIT市場の現状と見通し(米国)
~セクターの多様性に富む米国REITの魅力~

海外市場調査部 副主任研究員   風岡 茜

 今号から3回にわたり、世界のREIT市場の現状と今後の展望について考察していきたい。第1回の今回は、時価総額が世界最大の米国市場を取り上げる。

1.米国REIT市場の概要とセクター

 米国REIT市場は、1960年から60年弱の歴史を持ち、世界のREIT時価総額の約6割を占める世界最大のREIT市場である。米国REITは様々な制度改正や、成長・停滞・回復といったサイクルを幾度も経て、流動性と透明性が非常に高く、銘柄分散とセクター分散が効いた今日の成熟した市場へと発展した。米国REITの時価総額は、2019年1月末で約118兆円と、時価総額2位の日本(13.6兆円)や3位の豪州(10.3兆円)と比べて圧倒的な規模を誇る。また、サブセクターは12と多岐にわたり、オフィス、インダストリアル、小売、住宅などの伝統的なセクターの他に、ホテル、ヘルスケア、個人倉庫、森林、インフラ、データセンターなどのセクターもある。中には、農地、映画館、刑務所、戸建住宅に投資するREITもみられるなど、多様性に富んでいる。
 米国REITのサブセクターは、小売(16%)、住宅(15%)、インフラ(14%)、ヘルスケア(10%)で過半を占め、オフィス、インダストリアル、データセンター、個人倉庫などがこれに続く。これに対し、J-REITは複合・総合型43%、オフィス23%、物流・インフラ12%、住宅9%、商業施設8%、ホテル5%、ヘルスケア0.04%という構成になっている。
 過去3年間(2016~2018年)のパフォーマンスでは、インフラ、インダストリアル、データセンター、特殊型が好調だった一方、森林、小売などは軟調となっている。近年は特に、インフラ、データセンターなどの新しいセクターの勢いが目立つ。また、EC(電子商取引)市場の拡大は、小売セクターへの悪材料となる一方、インダストリアルセクターや倉庫セクターには好材料となっている。小売セクターは、株価下落に伴う時価総額縮小で、全体に占めるシェアが2016年7月末の24%から低下傾向にある。

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2.米国REIT市場の特殊セクター

 ここでは、米国REIT市場の特殊セクターとして、インフラ、ヘルスケア、データセンター、個人倉庫、森林、その他特殊型を取り上げ、セクターの概要と特徴をまとめる。このうち、ヘルスケアや個人倉庫は歴史が長いが、その他は比較的新しいセクターといえる。NAREIT(全米不動産投資信託協会)による各セクター別指数の算出開始時期は、森林は2010年12月、インフラは2011年12月、データセンターと特殊施設は2015年12月からである。いずれのセクターも主要銘柄の規模が大きく、セクターにおける寡占度は高いという特徴がある。なお、以下の情報はいずれも2018年末の情報にもとづく。

      • インフラ
         携帯電話の無線基地局などに投資するインフラREITは、2011年以降急成長した。時価 総額15.1 兆円(7銘柄) のうち上位3銘柄(American Tower 7.7兆円、Crown Castle 4.9兆円、SBA Communications Corp 2.0兆円)が97%を占める。American Tower(1995年設立、2011年REIT転換)は、米国を含む16カ国の基地局(米国4万件超、海外約12.8万件)や分散アンテナシステム(国内外約1,700件)を保有している。また、Crown Castle(1994年設立、2014年REIT転換)は基地局(約4万件)、スモールセル(通常の基地局を補完する小出力でカバー範囲の狭い基地局。約6.5万件)、ファイバールートマイル(約6.5万件)を保有している。
      • ヘルスケア
         高齢者住宅・施設や医療系施設(メディカルオフィスビル、病院など)に投資するヘルスケアREITは、1970年から長い歴史を持つが、2009年以降急成長した。時価総額は12兆円(18銘柄)のうち上位3銘柄が61%を占める。上位3銘柄(Welltower、Ventas、HCP)はいずれも時価総額1~2兆円の規模で、カナダや英国のヘルスケア施設にも投資している。その他のREITは国内投資が主である。
      • データセンター
         データセンターREITは2012年以降著しい成長を遂げており、2015年にセクターとして独立した。時価総額6.7兆円(5銘柄)のうち、上位2銘柄(Equinix 3.1兆円、Digital Realty Trust 2.4兆円)が82%を占める。Equinix(1998年設立、2012年REIT転換)は、国内外24カ国のデータセンターを200件超保有している。また、Digital Realty(2004年設立、2012年REIT転換)は、国内外12カ国のデータセンター195件超を保有しており、2017年には三菱商事と合弁会社を設立し、大阪と東京(三鷹)のデータセンターも運営している。
      • 個人倉庫
         個人向け貸し倉庫に投資する個人倉庫REITは1990年に誕生し、2010年から2015年にかけて急成長した。時価総額6.3兆円(6銘柄)のうち上位2銘柄(Public Storage 3.9兆円、Extra Space Storage 1.3兆円) が81% を占める。Public Storage(1972年設立、1995年REIT転換)は米国で約2,500件の個人倉庫を保有している世界最大の個人倉庫の保有・運営者である。また、Extra Space Storage(1977年設立、2004年REIT転換)は米国で1,700件の個人倉庫を保有している。
      • 森林
         森林REITは、2010年のWeyerhaeuser Company(1900年創設)のREIT転換に伴い誕生したセクターである(同年にセクターとして独立)。時価総額2.5 兆円( 4 銘柄) のうちWeyerhaeuser(1.8兆円)が単独で73%を占める。Weyerhaeuserは、米国の森林地(1,240万エーカー)、不動産やエネルギー・天然資源、木製関連製品(製材所、木材工場など)に投資している。森林REITは森林の収穫や売却を行うため、一般の不動産賃貸と収益構造が大きく異なる。
      • その他特殊施設
         特殊施設に投資するREITは古くから各セクターに存在したが、2015年に独自のセクタ ーが設けられた。特殊施設REITは、文書・データの補完施設(Iron Mountain)、娯楽施設( VICI Properties 、Gaming and Leisure Properties、EPR Properties)、広告看板(Lamar Advertising)、メディア関連(OUTFRONT Media)、更正施設(GEO Group)、刑務所(CoreCivic)、医療用大麻の工業施設(Innovative Industrial Properties)、農地(Gladstone Land Corp、Farmland Partners)などに投資している。

3.米国REITの課題、今後の見通し

 米国景気は転換期にある。ここまで好調な経済成長を背景に株式・REITともに史上最高値を更新し続けてきたが、今後は景気後退が懸念され、成長に歯止めがかかる可能性がある。昨秋から今年初にかけては、長期金利の上昇、米中貿易摩擦の長期化懸念、アップル・ショック(業績大幅下方修正)などで世界株式が乱高下する中、米国REITも金融市場の影響を大きく受けた。一方、FRB(米連邦準備制度理事会)は年内の追加利上げに慎重な姿勢を示しており、主要REITの決算内容をみてもファンダメンタルズは総じて好調である。米国REITは外部環境に左右されつつも、総じて堅調な伸びが期待されるが、パフォーマンスはセクターによって強弱がつくだろう。
 景気影響面では、ホテル・リゾートやオフィスは景気感応度が高く、個人倉庫、ヘルスケア、住宅などはディフェンシブ性が高いといえる。ファンダメンタルズ面では、商業施設は厳しい状況が続く一方、インダストリアル、データセンター、インフラ、個人倉庫などは、主にEC拡大を背景に堅調な伸びが期待される。今後の米国REITを見通す際は、セクター別の動向がより重要となっていくだろう。

(株式会社日本金融通信社「ニッキン投信情報 2019年3月11日号」 寄稿)
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