急増する訪日外国人客、更なる加速と波及効果に期待

投資調査第1部 客員研究員   岡村 七月

 近年、日本を訪れる外国人が急速に増加している。訪日外国人客数は、世界的金融危機と震災の影響による落ち込みからの回復も早く、2013年には初めて年間1,000万人を突破した。観光立国を目指す日本における訪日外国人客をめぐる動向について解説する。

観光立国宣言から10年、訪日外国人客は約2倍に増加

 今から約10年前の2003年、少子高齢化が進行する中で国内経済を活性化させるため、日本政府は「観光」を政策の柱に位置づけることを宣言し、官民挙げて外国人客の訪日促進に取り組むビジット・ジャパン・キャンペーンをスタートさせた。以来、政府は、一部地域を対象にビザの免除や発給要件の緩和、航空規制の緩和および国際線発着枠の拡大、海外に向けた訪日プロモーション展開などに意欲的に取り組んでおり、2008年には、施策推進を一段と強化するために、観光行政を担当する政府機関(観光庁)を設置した。これらの取組みよって、Low Cost Carrier(LCC)の参入が進むなど外国人客の誘致・集客を促進する環境が徐々に整い、訪日外国人客数は急速に増加している。この10年の間には世界的金融危機と東日本大震災があり、訪日外国人客は一時激減したが、いずれも早期に回復している。特に、2012年末の政権交代後はアベノミクス効果による円安の進行が需要を押し上げている。2013年の訪日外国人客数は1,036万人であり、初めて年間1,000万人の大台を超えた。

図表 目的別訪日外国人客数の推移

経済成長を続けるアジア諸国からの訪日需要が旺盛

 2013年に日本を訪れた外国人の国籍内訳は、韓国(246万人・24%)、台湾(221万人・21%)、中国(131万人・13%)と上位3位をアジア諸国が占め、4位が米国(80万人・8%)である。外交問題の影響で中国からの訪日客が前年に比べて減少しているが、2013年7月にビザ免除の対象国に加わったタイ、マレーシアを始め、10カ国(台湾、香港、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、ベトナム、インド、豪州、フランス)からの訪日客数が過去最高を記録するなど、日本との距離が近いアジア諸国からの観光客を中心に需要は好調である。その背景には、アジアをはじめとする新興国・地域において経済成長に伴って増加している中間所得層の存在がある。訪日需要を牽引しているとみられるこの層は、今後も増加することが予想されるため、これらの地域からの訪日外国人客は今後も増加するであろう。

図表 訪日外国人の国籍別動向、新興国・地域の中間所得層の推移と予測

次なる目標は年間2,000万人受け入れ

 円安の進行を追い風に訪日外国人客数の増加基調が勢いを増すなか、2020年のオリンピック・パラリンピックの開催地が東京に決定した。2013年にはこの他にも、富士山の世界文化遺産登録と和食(日本の伝統文化)の無形文化遺産登録が決定するというニュースがあり、まさに今、観光都市としての日本に世界の関心が集まっている。日本政府は、2020年までに訪日外国人客を年間2,000万人に増やすという新たな目標を掲げており、新たな施策展開とその効果も期待される。また、2014年の通常国会でIR(Integrated Resort)推進法案が審議される予定であり、法案が成立すれば、日本にカジノを含む複合観光施設が誕生することになる。アジアにおけるカジノ先進国であるマカオ、韓国、シンガポール、マレーシアは、日本を上回る外国人客を誘致しており、国際的観光都市として日本をリードしている。日本におけるカジノの誕生は、観光立国実現への大きな一歩となるだろう。

訪日外国人需要への期待から注目を集めるホテルマーケット

 日本が観光立国としての存在感を増すと同時に、内外から注目を集めているのが国内のホテルマーケットである。外資系高級ホテルの開業ブームは継続しており、近年その傾向は東京から地方都市に波及、ザ・リッツ・カールトン沖縄(2012年開業)、インターコンチネンタル大阪(2013年開業)、ザ・リッツ・カールトン京都(2014年開業)などの例がある。しかし、外資系ホテルの動向として特筆すべきは、従来話題となっている高級ホテルだけでなく、ビジネスホテルをはじめとする中級クラス以下のホテルをめぐる動きである。例えば、アジアで格安ホテルをチェーン展開するチューン・ホテルズ(マレーシア資本)は、2013年に日本第1号ホテルを那覇市に開業したのを皮切りに、東京(2015年開業予定)および政令指定都市において事業の積極展開を図ろうとしている。また、自社ブランドのひとつであるエコノミーホテルブランド「イビス」を東京(2011年開業)と京都(2013年開業)で展開しているアコーホテルズ(フランス資本)は、日本が経済面で東アジアの重要な拠点であるとして、日本での新規開業のスピードを加速する方針を打ち出している。このほか、既存ホテルの事業継承という形で国内のホテル事業に参入してくる海外資本の動きも目立ち始めており、直近では、香港の不動産ファンド運用会社がハイアットリージェンシー大阪を取得している。

 日本のホテルマーケットは、自国から多くの観光客を日本に送客しているアジア諸国のホテルオペレーターにとってはこれらの需要を取り込める公算が大きいことが魅力であり、世界規模でチェーン展開しているホテルグループにとっては世界中に多くの旅行者を送客している日本で知名度を上げることの意義は大きい。

 足元では、オリンピック・パラリンピック開催決定を受けて、東京のホテル市場への期待が一段と高まっており、国内外のプレイヤーによる新規開発や既存ホテルの取引等が一段と活発化する気配である。

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