不動産市場・ショートレポート(8回シリーズ)
コロナ禍で不動産市場は何が変わったか⑥/賃貸市場(ホテル)

投資調査第1部 客員研究員   岡村 七月

日本人の宿泊需要は居住地近郊への観光旅行から徐々に回復

 国内の宿泊施設(ホテル、旅館等)における延べ宿泊者数(宿泊需要)は、新型コロナウイルス感染拡大により急減した。外国人需要は入国制限により依然として消失状態にあるが、日本人需要は2020年5月を底に前年同月比の減少幅は徐々に縮小している。特に日本人需要の回復を牽引しているのは観光目的の旅行(業務目的の旅行は引き続き低迷)で、コロナ禍の2020年も6月以降、回復基調が続いている。

 そこで観光旅行の内容をみると、コロナ渦によって不特定多数が利用する公共交通機関を避け自家用車で往来可能な居住地近郊を選ぶ傾向が強まっている。観光旅行における域内旅行者比率(圏域内の旅行者全体に占める圏域内に居住する旅行者の比率)は、全国平均で4-6月期、7-9月期とも前年同期比で20%ポイント上昇した。特に首都圏1都3県と北海道を除く府県では、一足早く緊急事態宣言が解除され観光旅行の回復が進むも、長距離旅行の自粛により圏域内の短距離旅行が喚起され、加えて大都市圏からの旅行者の減少も相まって、域内旅行者比率が急激に高まっている。Go Toトラベル事業が開始された7月以降も東京発着の開始が10月と遅れたこともあり、引き続き高い域内旅行者比率を維持している。

 なおGoToトラベル事業では、飛行機や新幹線を利用した遠方への観光旅行も喚起されたが、感染第3波や2回目の緊急事態宣言等に伴い本事業は停止されている。こうした状況を鑑みると、国内の宿泊施設事業者においては、当分の間、インバウンド需要や日本人の長距離旅行に代わって、近隣居住者の需要をいかに喚起するかが問われることになろう。

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