建築費高騰が招く分譲事業戦略の多様化

投資調査第2部 副主任研究員   菅田 修

  • 建築費指数は2012年以降、大きく上昇しており2014年は前年比7.5%の上昇となった。
  • 首都圏の分譲マンション発売戸数は2014年に大幅減少。分譲マンション着工戸数も緩やかな減少傾向が継続。
  • 未発売戸数の推移から、2013年は消費税増税前の駆け込み需要が、2014年にはその反動減が生じていたものと推察される。
  • 2017年4月には、10%への消費税増税が控えており、分譲マンション市況の先行きが見通しにくい環境にある。物件を供給するデベロッパーにとっては、安定した収益の確保が難しい局面を迎えている。都心中心での分譲マンション供給から、郊外でのマンション供給や分譲戸建て・タウンハウスの供給など分譲事業戦略が多様化している。

建築費は2012年以降、大きく上昇し、2014年は前年比7.5%の伸びを記録

 集合住宅(SRC造・工事原価)の建築費指数は、リーマンショック以降の2009~2010年は建設需給が緩和した影響で大幅に下落していた。その後、分譲マンション市況の回復や賃貸マンションに対する資金流入増により緩やかな上昇トレンドに入っている。2012年以降は、復興関連の公共事業増加などにより再び建設需給が逼迫し急激に建築費指数が上昇している。特に、2014年は2013年と比べて7.5%の上昇となっておりファンドブーム期も含まれる過去10年間で最大の伸びとなっている。

図表1.建築費指数の推移

分譲マンション発売戸数(首都圏)は2014年に急減、着工戸数も伸び悩む

 首都圏の分譲マンション発売戸数は、消費税増税前の駆け込み需要で売れ行き好調だった2013年の約5.6万戸から2014年には約4.5万戸に大きく減少した。首都圏での4.5万戸前後の水準は、2010~2012年頃と同水準であり、2013年の好調だった部分が縮小して2014年にはその前の水準に戻ったという印象である。
 一方で、発売戸数の先行指標となりうる分譲マンションの着工戸数は、2012年以降、緩やかに減少している。特に、2010~2013年は1万戸を超えていた神奈川県の着工戸数が8,725戸となり、前年比で▲44%と大幅に減少している。

図表2.分譲マンション着工戸数の推移(首都圏)

2014年は未発売戸数の増加から消費税増税後の反動減が生じていたと推察

 ここでポイントとなるのは、2013~2014年は消費税増税前の駆け込み需要とその反動減が生じていたのかという点である。分譲マンションの売れ行きを相対的に示す指標として、未発売戸数を参照する。未発売戸数とは、以下の式により算出している。


未発売戸数=分譲予定戸数+未発売物件総戸数
 ※分譲予定戸数:既に発売を開始している物件の中で、まだ市場に供給されていない住戸のこと
 ※未発売物件総戸数:物件全体がまだ販売を開始していない物件の住戸のこと
 ※未発売戸数には、地権者住戸などの市場に供給されることのない住戸が含まれている

 未発売戸数は、売れ行きが変わらなければその水準が大きく変化しない指標と捉えることができる。一方で、減少している時期は分譲マンションの売れ行きが改善しており、潜在分も含め在庫が少ない局面と言え、増加している時は想定よりも分譲マンションの販売期間が長期化するなど売れ行きが悪化しており、潜在分を含めた在庫が積み上がってきている局面と言える。
 図表3に示すとおり、2013年は未発売戸数が減少傾向で推移しており、発売戸数が多かったにも関わらず在庫が順調に減少した売れ行き好調期だったと言える。一方で、2014年の後半から明確に未発売戸数が増加しており、売れ行きが悪化していたことを示している。以上から、2013~2014年には、消費税増税前の駆け込み需要とその反動減が生じていたと推察される。

図表3.未発売戸数の推移(首都圏)

供給規模を確保したいデベロッパーの中には分譲戸建て事業に注力する先も

 分譲マンション市場は、景気変動や政策の影響を受けやすい市場である。2017年4月には、10%への消費税増税が控えており、分譲マンション市況の先行きが見通しにくい環境にある。物件を供給するデベロッパーにとっては、安定した収益の確保が難しい局面を迎えている。特に、建築費が高騰していることで価格上昇を抑えることが難しく、エリア相場と比べると割高な物件供給が中心となるため、売れ行き悪化を招きかねない。そこで、分譲マンションデベロッパーの中には、以下に示すように、都心中心での分譲マンション供給から戦略を多様化させる傾向にある。これからは、効率性の高い商品であるマンションだけでなく、戸建て住宅やタウンハウスなどもシリーズとして揃えるデベロッパーが増加すると想定される。購入者からすると価格やエリアなどの選択肢が増加することにつながるため、様々なニーズに対応できる環境になっていくと言える。

◇住友不動産:
 戸建分譲事業を新設し、分譲戸建て事業に本格参入。首都圏を中心に年間数百戸レベルで供給していく計画。

◇モリモト:
 分譲マンションブランドと同じ名称を冠した戸建て住宅「ディアナハウス」を2014年以降、シリーズ展開していく。

◇双日新都市開発:
 マンション建設には厳しい形状の都内・駅近の土地にタウンハウスを供給する方針。周辺のマンション・戸建ての相場価格よりも安めの価格設定で物件を供給していく模様。

◇サンケイビル:
 郊外型ファミリー向け分譲マンションブランド「LEFOND soleil」をシリーズ展開していく。都心から1時間以内、駅から徒歩10分以内の立地に150戸以上の大規模物件を手がけ、中期的には年間1,000戸程度まで供給規模を拡大させる方針。

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