住宅ストックの更新や住宅取得の促進に向けた政策とその影響(2014年度)

投資調査第2部 副主任研究員   菅田 修

  • 「マンションの建替えの円滑化等に関する法律」の一部改正により、旧耐震マンションを「解消」することも可能となり、マンションストックの減少につながる可能性が生じている(2014年12月より施行)。
  • 「地方への好循環拡大に向けた緊急経済対策」の一つとして、住宅ローン金利の引き下げ幅が拡大することにより、2015年は2014年よりも分譲住宅が取得しやすい年となる(2015年2月より適用)。
  • 「空き家対策特別措置法」の一部施行により、特定空き家の除去などの対策が可能となり、住宅ストックの減少につながる可能性が生じている。(2015年2月より施行)。

 住宅ストックの更新・解消や住宅取得の促進のために、住宅政策として直近では以下の3つが実施されている。賃貸マンション市況等に対する直接的な影響は軽微であるが、今後の都市政策の流れを把握する上ではいずれも重要な政策と言える。そこで、本レポートでは、以下の政策の概要を整理すると共に、住宅市場において想定される変化についてまとめる。

マンションの建替えの円滑化等に関する法律の一部改正
  旧耐震マンションは「改修」・「建替え」の他に「解消」も選択肢の一つに

 住環境の整備のために公団住宅が供給されるようになったのは、1950年代頃からである。日本の集合住宅の歴史は60年前後に達しており、建物の耐用年数が40~50年と言われる昨今においては、建替え等の対応が迫られるケースが今後増加していく。既に、東京や大阪では、団地の一部が大規模分譲マンションに建替えられるケースも出てきているが、マンションストック全体で見ると老朽化マンションの建替え実績は1%にも満たない水準である(国土交通省の資料によると、マンションストック総数が約590万戸に対して、建替え実績は183件・約1.4万戸にとどまっている)。特に、東日本大震災以降、旧耐震基準の時期に建設されたマンションの耐震化促進が喫緊の課題となっている。

 これまで、老朽化したマンションや耐震性能不足のマンションを更新するには、「改修」か「建替え」の2つしか選択肢がなかった。「改修」では建物空間の拡大や機能の大幅改善が困難であり、「建替え」は権利調整が困難であることなどにより、マンションの耐震化促進がうまく図られていない状況にあった。そこで、「マンションの建替えの円滑化等に関する法律」の一部改正により、第三の方法として、マンションを「解消」することが可能となるような法整備がなされた。これにより、老朽化したマンションが建つ敷地を他用途へ転用することが可能となり、マンションを建築する方法しか基本的には選択できない「建替え」よりも可能性が広がる。また、今後の人口減少社会を見据えると、現在マンションが供給されているエリアの中で「建替え」を選択できるエリアは限定的となり、「建替え」ができないことで放置される可能性しかなかったマンションに対して新たな道が提示された形と言える。事業者にとっては、耐震性不足の認定を受けたマンションの敷地を買い取って新たなマンションに建替える場合、一定の敷地面積を有し市街地環境の整備・改善に資するものについて、容積率制限の緩和を受けられる等のメリットがある(ただし、日照権などの問題から高さ制限が設けられている場合、容積率が緩和されたとしても、その恩恵を受けられないケースが生じる可能性も指摘されている)。

 耐震性不足のマンションストックが「解消」されたとしても、住宅価格等の市況感に対する影響は軽微なでしかないだろう。しかし、老朽マンションが大量に発生するエリアにおいては、周辺環境の大幅な悪化を食い止められることなどのメリットが期待されている。


住宅ローン金利の引き下げ幅拡大
 低金利環境であることも相まって2015年は分譲住宅がより取得しやすい局面に

 分譲マンション発売戸数(首都圏)は、消費税増税前の2013年に大幅に増加したが、増税後の2014年には大幅減となり2010~2012年頃の水準に逆戻りしている。その理由として、2014年は二度目の消費税増税のタイミングが確定していなかったこともあり、購入に踏み切るインセンティブが低かったことや、建築費高騰の影響もあり物件価格に割高感が生じていたことなどが挙げられる。

 建築費の高騰は、短期的に解消される可能性は低く、分譲マンション価格が相場観として下落することは期待しにくい。そのような中、「地方への好循環拡大に向けた緊急経済対策」の一つとして、住宅市場活性化策が盛り込まれ、2015年2月からフラット35Sの金利引き下げ幅(当初5年間)が0.3%→0.6%へと拡大された。平成26年度補正予算により資金手当てされており、その資金には上限(予算は1,150億円)があるものの、足元の低金利局面と相まって2015年は2014年よりも分譲住宅を取得しやすい局面と言える。二度目の消費税増税は2017年4月の予定となり、2016年10月までに住宅購入に踏み切ることに対してインセンティブが生じている。それに加えて、今回の住宅ローン金利の引き下げ幅拡大により2014年よりも2015年に住宅購入する方が“お得”な局面となっている。大幅減となった分譲マンション発売戸数を押し上げる要因が生じており、2015年の市況が注目される(2015年の分譲マンション市況については、同日リリースレポートの「建築費高騰が招く分譲事業戦略の多様化」を参照のこと)。


図表1.住宅ローン金利の推移

空き家対策の推進に関する特別措置法の一部施行
 特定空き家の除去などの対策が可能になり、劣悪な住宅ストックは強制解消される可能性も

 日本全国において、空き家は全体ストックに対する比率として13.5%の約820万戸に達し、過去最高を記録している(平成25年住宅・土地統計調査)。住宅は、賃貸住宅市場におけるダウンタイム(入居者の退去から次の入居までの期間)や、分譲住宅市場における前保有者の退去から次の購入者の入居までの期間等で、必然的に空き家となるケースは生じてしまう。こういった住居は、次の入居のための管理・保全等が図られ、財としての価値が維持(または向上)される。その一方で、適切な管理・保全がなされない空き家が近年増加しており、防災・衛生・景観等の観点から近隣住民の生活環境にマイナスの影響を及ぼす可能性が指摘されている。

 空き家増加の理由として、現在、住宅用地の特例措置として、小規模住宅用地の場合は固定資産税が1/6、都市計画税が1/3に減額されることが挙げられる。一般住宅用地の場合でも、固定資産税が1/3、都市計画税が2/3に減額される。そのため、居住する意思がない住宅についても、所有者は取り壊さないでいる方が節税となるため、管理・保全等が図られない空き家が増加する要因となっている。この点に関しては、別途平成27年度税制改正大綱に優遇措置から外すべきである旨の記載がなされている模様である。

 また、東日本大震災以降は、防災に対する意識が高まり等を受けて、2014年11月に「空き家対策の推進に関する特別措置法」が成立し、2015年2月よりその一部が施行されている。

 法律上の「空き家等」とは、「建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地(立木その他の土地に定着する物を含む。)をいう。ただし、国又は地方公共団体が所有し、又は管理するものを除く。(国土交通省の開示資料より抜粋)」のことを指す。この中でも、今回の法整備により除去や修繕などの対策がとれるようになったのは、特定空き家等である。特定空き家等とは、以下の状態となった空き家等をいう。

 ① 倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
 ② 著しく衛生上有害となるおそれのある状態
 ③ 適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
 ④ その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
   (以上、国土交通省の開示資料より抜粋)

 特定空き家等に認定されると、自治体は措置の実施のための立ち入り調査を行うことができ、前述の通り除去・修繕などの対策も取ることが可能となった。これにより、管理・保全されていない住宅ストックの解消が進む可能性が生じ、新たな住宅供給余地等が創出されることが期待される。

 一方で、東日本大震災の時には、仮設住宅を供給できる用地を確保することが難しいなどの理由により、民間等が管理する住宅の空き家がみなし仮設住宅として活用された。都市機能の一部として、適切に管理・保全がなされている空き家が生じることは、必ずしもマイナスの面ばかりではない点に留意が必要である。

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