海外市場調査部 研究参事
伊東 尚憲
変化の兆しが見られる世界の不動産投資資金
世界の不動産投資市場に大きな影響を与えた世界金融危機。2008年のリーマンショックから5年が経過した。この間も、欧州債務危機や新興国の経済成長鈍化など厳しい環境が続いたが、ここにきて、ようやく明るい兆しが見られるようになっている。日本においてもアベノミクスやオリンピック開催への期待感もあり、不動産投資市場は国内外から注目を集めているところである。当社では、世界の不動産投資市場の動きを定期的にモニタリングしているが、今回は、世界金融危機以降の不動産投資資金の流れについて概観してみたい。
世界的な運用資産の増加と資産運用難を背景に、以前から不動産投資ニーズが高まっている。世界経済の拡大や新興国の台頭によって年金の運用資産額が増加していたことに加え、新興国における外貨準備の増加や資源価格の堅調などから政府系ファンド(SWF)の運用資産も増加している。そんな中、世界的に株価変動の幅が拡大し、国債利回りが低下するなど資産運用が難しくなる中で、安定的かつ一定のリターンを確保する必要性から不動産投資が注目された。更に、各国の不動産市場サイクルの違いを活用したリスクヘッジのために海外不動産投資が本格化した。リーマンショック前は米国やドイツ、豪州などの先進国資金がクロスボーダー不動産投資の中心であったが、その後は、韓国、中国、マレーシアなどアジア諸国や、カタールなど中東なども加わって多様化してきている。ここ1年間のクロスボーダー取引では、不動産投資ウエイトの拡大を図るノルウェーや中東のSWF、海外不動産投資が解禁された中国の保険会社による取引などが目を引く。
それでは、こうした資金はどこの不動産に向かっているのか。世界金融危機以降、まずクロスボーダー資金が向かったのはロンドンの不動産である。2009年以降、海外投資家による不動産取引事例が数多く観察される。取引慣行や情報開示など市場透明性が高いこと、不動産売買金額が大きく流動性も高いこと、加えてオフィス市場のファンダメンタルズも比較的安定していること等、世界のセーフヘイブン(安全な資金逃避先)として真っ先に注目された都市である。その後、ニューヨーク、パリ、東京、シドニーといった、その他の先進国の主要都市にクロスボーダー取引が拡大した。
そして今、先進国の主要都市における不動産取引額が横ばいで推移する中、スペインやイタリアなど、2010年の欧州債務危機で経済状態が大きく悪化し不動産投資が敬遠された国において、不動産取引の増加が観察されるようになっている。不動産投資資金のリスク許容度が高まり、金融機関の融資姿勢が改善することで、投資対象国は更なる広がりを見せている。リーマンショックから5年を経て、世界の不動産投資市場が復調し、再び活発化していることを示すものと考える。
「リスクを低下させリターンを増加させる」という、相反する投資ニーズをかなえるために、先進国だけでなく新興国までもがグローバル不動産投資を強化している。日本も膨大な運用資産を抱えている。日本の不動産市場は回復が期待される局面に入っているところではあるが、更にその先を見据えて、投資対象の選択肢のひとつとして海外不動産投資を本格的に検討する時期にきているのではなかろうか。