活況続くオーストラリアの住宅投資とその背景

海外市場調査部長 上席主任研究員     伊東 尚憲

 世界の主要都市では不動産投資が活発に行われているが、シドニーやメルボルンといったオーストラリアの主要都市も例外ではない。カナダの公的年金を運用するCPPIB(カナダ年金制度投資委員会)がオーストラリアREITであるデクサス・プロパティ・グループと共同で、コモンウエルス・プロパティ・オフィス・ファンドの所有するオフィスビル21棟、33億豪ドル(約3,300億円)を取得した。オーストラリアの年金基金REST Industry Superはシドニーのオフィスビル52 Martin Placeを5.55億豪ドル(約555億円)で取得するなど、国内外の機関投資家による大型取引が散見される。その一方で、個人投資家による住宅取得も活況となっており、シドニーやブリスベンの高級マンションが数時間の間に完売したといった話も聞こえてくる。今回のリサーチカフェは、オーストラリアの住宅投資ブームの背景について整理してみた。

海外からの熱視線:

世界の住みやすい街ランキング(The Economist Intelligence Unit “A Summary of the Liveability Ranking and Overview , August 2014”)においてオーストラリアは、1位メルボルン、5位アデレード、7位シドニー、9位パースとトップ10に4都市がランクインするほどの人気国である。海外からの移住先や投資先、そして留学先として人気が高い。オーストラリアで学ぶ留学生の出身国シェアを見ると中国が25.9%でトップとなっており、子供が留学するにあたって、子供の住まいの確保とあわせ、資産運用目的、あるいは親や家族での将来的な移民・移住を意識しての中国人投資家による住宅購入が多いようである。オーストラリアのビザ制度も投資家を呼び込みやすいものとなっている。500万豪ドル(約5億円)以上投資する個人が対象の投資家向けビザなどもあり、この場合、4年間で延べ160日以上オーストラリアに滞在すれば、英語力や年齢制限も関係なく永住権を取得することができる。このように、国としての魅力や制度が、海外からの人を引きつけることで、過去10年間の人口増加率は年率1.6%と先進国としては高い水準となっている。

住宅需要の増加と慢性的な住宅供給不足:

人口が増加すれば実需としての住宅需要が拡大する。加えて資産運用としての住宅投資ニーズも強い。オーストラリアは富裕層(年間可処分所得3万5000米ドル以上(JETRO定義))の割合が人口の約60%を占めており所得水準が高い(JETRO「エリアレポート・オーストラリア」)ため、資産運用への関心も高いようである。ネガティブ・ギアリングと呼ばれる住宅融資を使った税控除があることも大きい。ただ一方で、建設労働者の不足や、開発適地の不足(面積は広大だがインフラの問題から可住地が限られてしまう)、時間を要する許認可手続きなどの理由で、慢性的に住宅の供給不足が続いてきた。このことから需給は常にタイトな状態にあり、住宅価格は長期安定的に上昇が続いている。

経済成長の鈍化と低金利:

加えて足元の景気伸び悩みが住宅需要を刺激している。オーストラリアの経済成長率はプラスを維持しているものの、伸び率が鈍化している。鉄鉱石や石炭といった資源ブームが去り、インフラ投資や設備投資などの投資が減速したことが最大の要因である。景気対策として金利が引き下げられ、2013年8月以降、政策金利は過去最低水準の2.5%に据え置かれている。住宅ローン金利もこれまでの10%水準から5%台まで低下しており、新規、借り換え含めて資金調達しやすい環境にある。

ジェネレーションYと都心マンション人気:

これまでオーストラリアでは、郊外に一戸建てを購入して住むというのが一般的なスタイルであった(オーストラリア全体で持ち家率67%、戸建て比率76%)が、ジェネレーションY(1980年~1994年に生まれた世代)は、スタイルが異なっているようである。自動車の所有率は低く、住宅も郊外の一戸建てではなく、利便性の高い都心部を好むという世代の特徴から、都心部での住宅需要拡大につながっている。このことはオフィス立地にも影響を与えているようで、オフィスを郊外から都心に移転する動きも見られる。オフィス需給悪化で実質賃料が低下したことの他に、都心にオフィスを構えることで、若い世代であるジェネレーションYを採用しやすくすることも理由である。

オフィス需給悪化と都心マンション供給増加:

オフィス需給が悪化したことで、特に築古のビルや、CBD周辺部など立地が劣るビルなどが競争力を失っている。シドニーやメルボルンにおいて、こうしたBクラスビルを取得して住宅に建て替える工事が活発に行われている。例えば中国のデベロッパーである緑地集団は、シドニー都心部において約1億ドル(約100億円)で古いビルを取得し、高さ240mの高層マンション(400戸強)に建て替えようとしている。第一期は完売し、現在、第二期を販売中である。これまで少なかった都心部のマンションが新たに供給されるようになったことも、投資家による住宅投資を活発化させている理由のひとつである。

 こうした背景からオーストラリアの住宅投資市場は活況が続いている。ただ、足元では、失業率の増加や賃金の伸び悩みといった景況感の悪化や、住宅価格が上昇し一次取得者には手が届きにくい価格水準となっていること、など懸念材料も増えてきていることも事実である。経済成長と不動産価格の間にやや乖離感が出てきているものと考えられる。短期的な調整の可能性はあるものの、オーストラリアは、着実な人口増加、豊富な資源、海外からの継続的な投資など、ファンダメンタルズがしっかりしており、中長期的な住宅需要の成長を見込むことができると考えている。

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