海外市場調査部 研究参事
伊東 尚憲
世界の不動産取引額減少とその先にあるもの
英国がEU離脱を選択して3カ月が経過した。株価は持ち直し、足元の経済指標も比較的堅調に推移するなどしているが、不動産市場では、不動産ファンドの解約を一時停止したアバディーン・アセット・マネジメントの運用するファンドが、評価額から1割強の値引きをしてロンドン中心部のオフィスを売却するなど、不動産価格の下落を示す取引も見られる。不動産取引額に関しては、現時点では2016年6月までの統計しか出ていないので、国民投票結果を受け、不動産取引がどの程度変化したかを把握することができないものの、日々の報道等で見る限りは、不動産取引成立に関するニュースは減少している。
英国の不動産取引額は2016年に入ってから前年比半減近い大幅な減少となっていた。国民投票が終わるまでは様子見姿勢を強める投資家(まさか離脱が選択されるとは思いもしないものの)が多かったことが大きく影響しているが、それだけが要因ではない。2016年に入ってからの不動産取引額減少はEU離脱を決めた英国に限った話ではなく、米国はじめ、世界の主要国でも不動産取引額が減少している。2009年以降、世界の不動産取引額(事業用不動産取引)は増加が続き、2015年には前回のブーム(2007年)を超える取引額が記録されるなど好調に推移していた。しかし、今年に入ってからは2四半期連続で前年割れ、それも20%強の大きな減少となっている。世界的低金利で運用難の中、不動産投資への関心は引き続き高く、不動産投資に向かうべく待機している資金は依然として多い。不動産投資家がいなくなった、あるいは不動産投資意欲をなくしたとは考えにくい。やはり、ここ数年続いた不動産市場の好調で、不動産価格が上昇し、売手と買手の価格目線の差異が拡大し、不動産取引が成立しにくくなったことが、世界的な不動産取引額の減少につながったものと考えられる。
不動産取引市場においても取引量と価格のサイクルを観察することができる。すなわち、①価格上昇・取引量大→②価格高騰・取引量減少→③価格調整・取引量小→④価格低迷・取引量拡大という4つの局面を繰り返すというもので、米国や英国など先進国で、このようなサイクルを確認することができる。昨年来、多くの先進主要国で不動産価格が高値圏にある。そして今年に入ってからは取引量が減少しており、②の局面にある。となれば、次は③の価格調整の局面に移行することになる。インフレ基調であれば、物価上昇と循環的な価格調整が相殺され、下落が表面化しない場合もあるが、足元、高いインフレ率は期待しづらい。また、英国EU離脱交渉の行方、米国大統領選の結果、欧州発の金融混乱、中国のハードランディングや政治リスクなど、価格調整を大きくするようなリスクが世界には多くあることも忘れてはならない。
世界の主要先進国の不動産市場は、取引減少を経て、循環的な価格調整局面に入る可能性が高い。ただ、こうしたサイクルはこれまでも繰り返されており、価格急落につながるリスクを注視しつつも、次の価格上昇に向けた、投資のタイミングを探る好機として捉えたい。
(株式会社不動産経済研究所「不動産経済ファンドレビュー 2016.10.15 No.408」 寄稿)
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