海外REIT市場の最新動向(豪州、欧州)
~商業施設REITやM&A動向に注目~

海外市場調査部 主任研究員   安田 明宏

1.グローバルREIT

 はじめに主要国・地域のパフォーマンスをグローバルで概観する。2020年のパフォーマンスを比較すると、Covid-19で需要が拡大した物流施設の比率が高い豪州やシンガポール、加えてデータセンターやインフラ等のデジタル関連セクターが牽引した米国が小幅下落に留まった一方、商業施設や総合型、オフィスの比率が高い欧州、香港、日本の下落が大きかった。2020年11月以降は、ワクチン接種拡大や景気回復期待を受けて、Covid-19で急落したセクターが割安感から買い戻され、直近6月25日時点で米国、豪州、日本は2019年末を上回る水準に回復している。欧州も商業施設を含む幅広いセクターで復調がみられるが、大幅な下げを戻すまでには至っておらず、2019年の約9割の水準に留まっている。

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2.豪州REIT

 豪州REITは2021年5月末で49銘柄、時価総額は12.6兆円で、物流施設特化型が時価総額の約3割、商業施設特化型が3割弱を占めている。
 2020年の豪州REITのトータルリターン指数(S&P/ASX 300 REIT)の下落率は4%に留まり、8%下落となったグローバル全体を上回った。生活必需品以外を扱う商業施設は大幅下落したものの、スーパーマーケットやホームセンターやガソリンスタンドなどの生活密着型商業施設、物流施設、個人向け貸倉庫や農地REIT等の上昇がこれを緩和した。個別REITでは、豪州とニュージーランドで大型ショッピングセンターWestfieldを展開する豪州最大の商業施設REIT、Scentre Groupが-25%、同じく豪州で超大型ショッピングセンターを運営するVicinity Centresが-34%と下落が目立った。一方、豪州最大の物流REITであるGoodman Groupは4割強上昇し、豪州最大の大型ホームセンターBunnings Warehouseを保有するBWP TrustやCharter Hall Group、スーパーマーケットHomeCo.を保有するHome Consortium等も堅調となった。このほか、農地REITのRural Funds GroupやVitalharvest Freehold Trust、個人向け貸倉庫のNational Storage REITも上昇している。
 豪州REITは2020年の下落が相対的に小さかった分、2021年の反発も小さく、2021年年初来(6月25日まで)の上昇率は11%とグローバル全体の19%を下回っている。豪州のオフィスや産業用施設等を保有するDexus Property Groupは、2020年に15%下落したが、2021年年初来は2割上昇している。同社は資産運用強化を図る目的で2021年5月、豪州不動産投資会社APN Property Groupの買収合意を発表した。APN は非上場不動産ファンドと2つの豪州REIT、オフィスと産業用施設に投資するREITとガソリンスタンドに投資するREITを運用している。

■個別商業施設REITの業績動向
 豪州商業施設REIT のScentre GroupとVicinity Centresは、Covid-19に伴う売上減少やテナントに対する賃料救済で、2020年6月末時点のポートフォリオは2019年末から約1割の評価減となった。こうした評価損の計上や、賃料救済や駐車場収入の減少で2020年1-6月期のFFO(Funds From Operations:純利益に減価償却費と不動産売買損益を加えたもの)はマイナスとなった。その後、Scentre Groupの賃料回収率は、2020年1-6月期の平均7割(特に4-5月は3割前後)から7-12月期は平均9割にまで回復、Vicinity Centresも2020年4月の3割から7-12月期は平均7割に回復している。

3.欧州REIT

 欧州REITは2020年末で489銘柄、時価総額26.1兆円で、このうち62銘柄、時価総額20.5兆円がFTSE EPRA Nareit Developed Europe REIT指数に組み入れられている。以下ではこの指数構成銘柄を欧州REITとして見ていく。英国(33銘柄、9.6兆円)、フランス(6銘柄、4.4兆円)、ベルギー(10銘柄、2.6兆円)、オランダ(5銘柄、1.7兆円)の順に時価総額が大きく、セクター別では複合用途が約半分で最大、オフィスが2割弱、商業施設が1割強となっている。
 2020年の欧州REITのトータルリターン指数の下落率は24%と、8%下落したグローバル全体を下回った。商業施設が時価総額の9割強を占めるオランダREITが-47%、商業施設と総合型が大きく下げたフランスと英国REITが各々-27%、-16%となった。蘭Unibail-Rodamco-Westfield、仏Klépierre、英Hammersonなど商業施設REITが大幅下落したほか、仏CovivioやIcade、英LandsecやBritish Landなど総合型も軒並み下落した。しかし、2020年11月以降は回復傾向にあり、2021年年初来(6月25日まで)の上昇率はグローバル全体並みの17%となり、個人向け貸倉庫、商業施設、物流施設、複合用途、オフィス等、幅広いセクターが戻している。

■個別商業施設REITの業績動向
 欧州の商業施設REITは積極的な買収で規模を拡大してきた。欧州最大の商業施設REITで欧州諸国と米国で高級ショッピングセンターを運営しているUnibail-Rodamco-Westfield(以下URW)は、2007年にフランスREITのUnibailとオランダREITのRodamcoが合併でUnibail-Rodamcoとなった後、2018年に豪州REITのWestfield Corporationを買収したことで誕生した。欧州2位の商業施設REITの仏Klépierreも、2014年にオランダREITのCorioを買収している。
 URWの運用資産の85%を占める商業施設は、2020年の賃料収入が前年比26%減、経常利益が40%減となった。2020年は通常営業できたのが70日のみ、閉館は平均93日間となり、テナントの賃料救済で賃料回収率が平均8割に留まった。同社はWestfield買収に伴う負債の削減を進めており、2020年にフランスの商業施設を一部売却したほか、2021年2月には米国モール事業の撤退と欧州資産の売却促進、2020年から2022年まで3年間配当を行わない方針を示すなど、資産構成の再構築を図っている。

4.今後の見通し

 世界的にEコマースの拡大が続く中で、物流施設は今後もREIT市場の成長を支えるだろう。一方、商業施設やオフィスREITは株価も業績もCovid-19による急落からは復調しているものの、実店舗やニューノーマルに対応するオフィススペースの在り方が模索される流れが続くとみられる。このことは商業施設やオフィス等の比率が高めの豪州REITや欧州REITの成長の重しとなる可能性がある。また、両市場とも歴史的にM&Aによる成長戦略が活発に行われてきており、今後の動向に注目したい。

(株式会社日本金融通信社「ニッキン投信情報 2021年7月12日号」 寄稿)
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