中国:墓地価格の高騰と住宅価格の低迷で出現する「骨灰房」

海外市場調査部長 上席主任研究員   安田 明宏

 最近、中国で「骨灰房」に注目が集まっている。骨灰房(中国語の読み方は「グーフイファン」)とは、遺骨の保管場所として利用されている住宅のことを指す。遺骨保管用に購入される住宅もあれば、結果的に遺骨の保管場所となった住宅もある。言うまでもなく、一般的な住宅の利用方法ではない。違法性も疑われ、公序良俗の観点から周辺住民とのトラブルに発展するケースもある。窓をレンガやコンクリートで塞いでいる、先祖の墓参りをする清明節のときのみに来訪者がある、といった特徴があるものの、外観から骨灰房であるかどうか判別するのは難しい。ある集合住宅では、「生きている人」より「生きていない人」の数が多いフロアがあるという。

 骨灰房が広がった最大の要因は、墓地の供給不足にともなう墓地価格の急騰である。少子高齢化が加速する中、大都市から交通アクセスのよい近場の墓地は入手困難となっている。そこで、遺骨の保管場所として目をつけられたのが価格水準の低い周辺都市にある住宅である。大都市周辺の都市にある住宅は、住宅だけあって墓地より交通利便性は高く、比較的往訪しやすい。骨灰房は大都市周辺のみで見られる現象であり、墓地が廉価な小都市や遺体を埋める(=土葬)場所に困らない農村では発生しない。

 交通利便性以外にも大都市周辺の住宅が骨灰房として選ばれる理由がある。墓地の使用権は通常20年と短く、更新料を支払わなければ墓は取り壊される。一方、住宅の土地使用権は70年と長く、追加的なコストを抑えることができる。次に、墓地は単身用や夫婦2名用が一般的であるが、住宅だとより多くの遺骨を保管することが可能となる。墓地は転売が難しいが、住宅であれば将来的には売却できる点もあげられる。さらに、昨今の住宅市場の低迷から、高騰する墓地価格に比して住宅価格に割安感が生じたこともその理由として考えられる。

 中国政府は海洋葬や樹木葬といった形の散骨を推奨してはいるものの、古くから続く土葬の名残も強く、墓標となる場所は重要であり、死生観の変化には時間を要する。できる限り近い場所に遺骨を置いておきたいという需要は根強い。骨灰房は社会問題化しやすい性格を有しているため、今後、骨灰房に対する法規制が整備される可能性はあるものの、大都市周辺で墓地価格の高騰が続く限りは、骨灰房の需要は細々と続くとみている。そして、昨今の住宅市場の低迷が続けば続くほど、骨灰房の需要を下支えする構図も続くだろう。

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