海外市場調査部長 上席主任研究員
安田 明宏
中国:需給両面の緩和策で転換点を迎える住宅市場
中国の住宅市場は低迷が続いている。融資規制の影響で不動産デベロッパーの資金流動性が逼迫し、デフォルトの危機が頻発したほか、建設中プロジェクトの中断や引き渡しの遅延が発生して社会問題にまで発展した。一方、住宅需要は「ゼロコロナ政策」の影響を大きく受け、厳格な行動・移動制限から販売・購入の動きが鈍化、景気低迷による先行き不透明感の増大で購入意欲が低下した。不動産デベロッパーへの信頼度が大きく低下したことも需要低迷の原因としてあげられる。
すでに、中国政府は、供給面では資金繰りが悪化した開発プロジェクトに対する資金供給、需要面では購入制限や住宅ローン条件の緩和など、需給両面で市場のテコ入れを図っている。その中でも、2022年11月のデットを中心とした「金融支援策」およびエクイティを中心とした「資金調達支援策」と、同年12月の「ゼロコロナ政策」からの方向転換が低迷する住宅市場の転換点となりそうだ。
まず、「金融支援策」は、2022年11月11日付で中国人民銀行および中国銀行保険監督管理委員会(銀保監会)が地方の金融当局や金融機関に通達したものである。主な内容は、①優良な不動産デベロッパーに対する融資、起債、プロジェクト買収を支援する、②6カ月以内に返済期限が到来する不動産デベロッパーの銀行融資や信託借入で1年間の延長を可能とする、③国家開発銀行などの政策銀行による住宅引き渡し保証をするための特別融資を提供する、④地方政府は、各地の状況に応じて頭金比率と住宅ローン金利の下限を設けることができる(金融機関は地方政府の方針に従って頭金比率や住宅ローン金利を決める)、⑤一定条件下で住宅ローン返済に関して延長交渉を推奨する、などとなっている(中国政府ホームページ)。
一方、「資金調達支援策」は、2022年11月28日付で中国証券監督管理委員会(証監会)が発表したものである。これにより、上場不動産デベロッパーは、株式発行で調達した資金を既存の不動産関連事業のほか、運転資金の補充、債務返済などにも充当できるようになった(一方、新規の開発用地取得や不動産事業には使用できない)(証監会ホームページ)。
これらの政策を受け、国有銀行や大手銀行が相次いで不動産デベロッパーに対する融資支援を表明した。加えて、不動産デベロッパー自らも資金調達に動き始めている。
「ゼロコロナ政策」下で需要が喚起されない中、不動産デベロッパーの資金流動性をこれ以上低下させると、更に雇用や消費が悪化し、社会不安が広がることも想定されるため、供給側のコントロールとしては「改革推進」より「まずは救済」に中国政府の判断が傾いたのではないかと考えられる。ただし、これらの支援策は、不動産デベロッパーの「借金体質」で「自転車操業」的な経営の改革が後ろ倒しされ、淘汰されるべき体質が存続することも意味する。それでも、体力のある優良な不動産デベロッパーが優先される方針が明確である点を鑑みると、改革ペースの鈍化は致し方ないが、決して諦めているわけではないという中国政府の態度も見てとれよう。
もうひとつの転換点の材料が「ゼロコロナ政策」からの方向転換である。「ゼロコロナ政策」は、住宅需要を閉じ込める「蓋」のような存在であった。2022年12月7日、中国政府は、PCR検査範囲を縮小し、一定の場所を除いてPCR検査の陰性証明や健康コードの提示を求めないとしたほか、無症状者や軽症者の隔離は自宅隔離とするなどの方針を示した。すでに11月に隔離措置の緩和やPCR検査拡大の抑制などの方針を示していたが、厳格な規制に対する抗議デモが中国各地で発生した影響もあり、事実上の「ゼロコロナ政策」から「ウィズコロナ政策」への方向転換となった。12月13日以降はコロナ対策で使用されてきた行動追跡アプリの運用をやめたほか、14日には無症状感染者数の公表を中止した。2023年1月8日には、入国時の隔離措置を完全撤廃している。
今後、「ウィズコロナ政策」下で経済活動がスムーズに回り始めれば、景気回復への期待感が高まり、住宅需要も喚起されるだろう。供給側で発生した資金流動性の問題が諸政策で解決に向かえば、不動産デベロッパーへの不信感も逓減し、需要を後押しするとみられる。ただし、中国政府は従来から「景気対策のために不動産を使うことはしない」旨を示しており、2022年12月15日から16日にかけて開催された中央経済工作会議においても、従来からの基本方針である「房子是用来住的、不是用来炒的(住宅は住むためのもので、投機のためのものではない)」が改めて堅持されたこともあり、実需以上の需要は抑制される傾向が続き、急速な回復は見込まれない。
コロナ感染者が激増する中、経済・社会活動が再開されたものの、医療体制の逼迫やサプライチェーンの混乱などもあり予断を許さない状況である。2023年1月下旬には春節(旧正月)を控えており、人的移動が激しくなることから感染者数の更なる増加も予想され、混乱が長期化する可能性もある。住宅需要の回復には、人びとの落ち着いた生活が必要不可欠である。まずは、中国が「ウィズコロナ政策」下で経済的、社会的な混乱を乗り越えることに期待したい。
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