不動産市場・ショートレポート(7回シリーズ)
コロナ禍収束に向けた不動産市場の動き③/賃貸市場(商業施設)

投資調査第2部 上席主任研究員   大谷 咲太

商業施設にとってEC市場の拡大は最大の脅威となるが、施設によっては恩恵もある。

 小売市場において、EC(電子商取引)は存在感を増している。2012年に5兆円であったEC市場規模は2019年には倍の10兆円になった。2025年にはさらに倍の20兆円に拡大し、それに伴い実店舗の販売額が減少する見込みである。商業施設にとって、人口減少や高齢化による負の影響も危惧されるが、ECはそれ以上の脅威となる。
 これまでは、高齢化が進んでいることや、身近に店舗があることなどから、他国に比べてEC市場の拡大は緩やかであり、2019年における小売合計でのEC化率は米国が11%であるのに対し、日本は7%と低かった。ただし、足元ではコロナ禍で同比率の拡大ペースは加速している。要因として、①感染拡大による行動制限や、実店舗がコロナ禍で休業・時短営業となり、EC以外で購入しにくい状況となったこと、②実店舗の閉店を実施するテナント事業者が販売チャネルのECシフトを強化したこと、などが挙げられる。①についてはコロナ禍での影響は大きいが、収束後は影響が薄れる。一方、②については実店舗の閉店と、IT投資などのEC販売網の整備が進むため、長期にわたって影響が残りやすい。特にアパレル企業の販売チャネルのECシフトが顕著となっている。そのため、ファッションテナントへの依存度が高い大型モールや駅ビルなどはECの影響が顕在化しやすい。衣料品のEC化率が日本の約2倍と高い米国では、ファッションテナントへの依存度が高い大型モールの稼働率はコロナ禍で大幅に低下している。
 一方、新規ブランドの立ち上げや、品質などの商品紹介はECでは完結しにくく、実店舗のショールーム機能の重要性は増している。レジャー施設も充実した集客力のあるモールや、来街者の多いハイストリート沿いの路面店舗はショールームの機能が高い。ECと実店舗は補完的な側面もあり、こうしたショールーム機能の高い施設・店舗へのテナント出店ニーズはEC市場の拡大によって逆に高まるだろう。

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