海外市場調査部 研究参事
伊東 尚憲
世界的に高値圏にある不動産価格の転換点は?
ここ数年、緩やかな景気回復と低インフレを背景に株式市場は好調に推移、いわゆる適温相場が続いてきたが、今年の1月以降、やや変調を来している。不動産市場においても同様の適温相場が続いてきたと考える。当社では四半期ごとに世界主要都市のオフィス賃料やオフィス価格などのサイクル判断を行っているが、ニューヨーク、シドニー、ミュンヘン、東京など多くの先進国都市はピーク近く、時計で言えば10時から12時に位置したまま動きのない状態が1年以上続いている。経済好調によるオフィス需要の拡大や、低金利によるキャップレートの低下などを背景に緩やかな価格上昇が続いているためである。
こうした不動産の適温相場にも転換点が近づいている可能性が高い。米国や英国では政策金利が引き上げられ、欧州でも資産購入プログラムの縮小が行われるなど、金融緩和政策が転換されようとしている。これまでは政策金利が上昇しても低インフレであるため、長期金利は緩やかな上昇に止まっていたが、米国や英国においてインフレ率が上昇、あるいは上昇懸念が強まっていることで、長期金利が上昇しやすい環境が整ってきたためである。不動産の場合、長期金利の上昇はキャップレートの上昇要因であるが、そのバッファとなるべき賃料上昇(キャッシュフロー成長はキャップレート低下要因)も期待しづらい。というのも、多くの都市において、2010年以降、オフィス需給改善と緩やかな賃料上昇が続いたことで、これ以上の改善が見込みづらくなっているためである。
不動産価格が高値圏で停滞することで、売手と買手の取引価格目線が合いにくく取引が成立しづらくなっている。実際、最近のオフィス取引件数を見ると、ニューヨーク、ロンドン、東京、シンガポールなどでは、取引件数が過去10年間の水準と比べ少ない状態が続いている。一方、2007年以降のオフィスの取引件数(四半期ベース)とキャップレート(四半期ベース)の時差相関を見ると、取引件数がキャップレートを先行して動いている都市が多い。具体的には、シドニーの4四半期先行、東京の7四半期先行、ロンドンの1四半期先行、ニューヨークの3四半期先行などである。例えば、シドニーの場合、オフィス取引件数が増加した4四半期後にキャップレートが低下する関係にある。逆に取引件数が減少すると4四半期後にキャップレートが上昇する関係である。不動産取引市場が比較的オープンなロンドンのタイムラグが小さいのに対して、東京のタイムラグが大きくなっていることは市場の効率性を示すようで興味深い。
ここ数年は、先進国における金融政策正常化の動きや、各国における政治的混迷、中東や北朝鮮などの地政学リスクなど、さまざまなリスクを回避しながら、緩やかな不動産価格の上昇が続いてきた。しかし現状は、些細なきっかけでも金融市場が不安定化し、不動産価格の下落につながりやすい状況にあると考えられる。不動産価格の転換点を見極めるために、さまざまなリスク要因を注視することはもちろん、不動産取引件数など不動産価格を先行する指標をモニタリングしていくことがより重要になっている。
(株式会社不動産経済研究所「不動産経済ファンドレビュー 2018.3.15 No.457」 寄稿)
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