豪州不動産価格のサイクルとトレンド

海外市場調査部長 主席研究員     伊東 尚憲

 豪州住宅価格が下落している。1月に公表されたCoreLogicの住宅価格インデックスによると、2018年通年で豪州全体の住宅価格は4.8%下落した。中でもシドニーは8.9%下落、メルボルンは7%下落と、主要都市での下落が目立つ。これまで価格上昇の勢いが強かった都市ほど、調整幅が大きくなっている。一方、豪州のオフィス価格は上昇が続いている。Real Capital Analyticsの算出するオフィス価格指数によると、時期は若干異なるものの2018年9月末までの1年間で、豪州全体で10.8%の上昇、シドニーは8.2%の上昇、メルボルンは14.7%の上昇となっている(ただしシドニーとメルボルンは商業用不動産全体の価格指数)。

 こうした価格変動の違いについて、それぞれの要因を整理すると、住宅では、大都市圏における住宅供給の増加(都市中心部で古いオフィス等を住宅に再開発する動きが多く見られた)、金融機関の住宅ローン融資基準の強化による需要減少、外国人投資家の需要減少(印紙税増税など住宅価格抑制策、中国の海外投資抑制)、景気の先行き不透明感や今年実施される総選挙で優勢が報道される野党の住宅政策懸念(住宅減税の縮小など住宅需要にはマイナス)、などが価格下落の要因となっている。一方、オフィスでは、新規供給が比較的少なかったこと、住宅やホテルなどへの転用やメトロ新線建設の関連での滅失などストックが減少する要素が多かったこと、需給が逼迫しオフィス賃料が上昇したこと、好調な賃貸市場を受け国内外からオフィス投資需要が集中しキャップレートの低下が続いていること、などが価格上昇の要因としてあげられる。それぞれの状況は異なるが、ともに需要や供給の増減による需給サイクルの違いが、価格変動の方向性の違いとして反映されていることがわかる。サイクルである以上、こうした状況は、いずれ逆方向に動くわけで、実際、住宅市場では市況悪化を受け建築許可戸数が既に減少してきており、融資規制の緩和や金利低下があれば需給改善が期待できる。一方、オフィス市場では近年の賃貸市況好調をうけ2020年以降、新規オフィス供給の増加が見込まれており、需要が伸び悩む中、需給緩和が予想される。

 不動産市場を見る上で、こうした需給サイクルを読むことは基本だが、豪州において忘れてならないのは長期での不動産価格上昇トレンドである。豪州不動産価格の長期上昇トレンドを支えるものは、着実な人口増加である。豪州統計局の推計では、2018年8月に2,500万人を突破したばかりの豪州人口は、2029年過ぎに3,000万人を突破することが見込まれている。海外からの移民が人口増加を支え、先進国でありながら年率1.7%程度の高い人口増加率、言い換えれば不動産需要の着実な増加が見込めるところが豪州不動産の強みである。短期的な需給サイクルによる価格変動はあるものの、不動産需要の成長という上昇トレンドによってある程度吸収され、ならしてみると豪州の不動産価格は安定成長してきたし、その基調は当面変わらないものと見られる。人口増加に対応できる社会基盤の整備促進や、慎重化する移民政策の動向などに留意すべきだが、長期的に期待される不動産需要の成長や、透明性や流動性の高い不動産市場など、豪州不動産市場は引き続き魅力的な市場であると考える。

(株式会社不動産経済研究所「不動産経済ファンドレビュー 2019.2.15 No.489」 寄稿)

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