不動産市場・ショートレポート(8回シリーズ)
アフターコロナでの新しい不動産市場⑤/賃貸市場(物流施設)

投資調査第1部 主任研究員   上田 紘平

EC化と人手不足で物流コストが上昇。高機能化とネットワーク再編が新たな物流施設需要を創出。

 コロナ禍の長期化でいわゆる「巣ごもり需要」が拡大し、EC(Electronic Commerce:電子商取引)等に見られる小口の貨物件数が急増。片や輸出入に係わるコンテナ不足に加え、その移動を担う港湾労働者やトラックドライバーの不足等も感染回避等を理由に加速。この結果、人件費や運賃などの物流コストが上昇し、商品価格の値上げにも波及しつつある。そこで本レポートでは、特に国内物流のコスト構造に着目し、その動向を踏まえつつ、アフターコロナにおける物流施設市場の見通しを示す。

 これまで、貨物の送り主である荷主、および荷主の物流業務を請け負う物流事業者においては、既存の物流施設を前提に、アウトソーシングや在庫削減、および作業・労働力・保管・積載等の様々な業務効率化を通じ、物流コストの削減に取り組んできた。この結果、物流コストの対売上高比率は、2000年度の5.9%から2005年度には4.8%と急減し、その後も業務効率化を継続し同比率は低水準に抑えられてきた。しかし2010年代後半には、人口減少に伴う労働力不足を背景に人件費が急騰。特に2020年度は前年度比+0.47%PT、2021年度は同+0.32%PTと物流コストは大きく上昇し、2000年代前半に逆戻りしている。

 特に物流コストの約6割を占める「輸送費」は、17~20年度に+0.39%PTと急上昇。とりわけコロナ禍で消費者のECシフトが急進し、手間のかかる小口貨物の急増が輸送費を押し上げた。またトラックドライバーも、常態化する人材不足に加え、時間外労働時間上限規制の2024年4月施行が迫っている。今後も、こうした輸配送力の低下に伴い、輸送費はさらに上昇する可能性が高い。また物流コストの約2割を占める「荷役費」は、17~20年度に+0.16%PTと輸送費に次いで高い伸びとなった。荷主や物流事業者の多くは、小口貨物等による輸送件数の急増に対応するため、各物流拠点で大量の庫内作業員の確保が必要となる。ただし他業種との人材獲得競争は激しく、勢い、庫内作業員の時給は上昇を余儀なくされている。

 今後、ECシフトはさらに進み、輸送費および荷役費等の物流コストの上昇は不可避となろう。ただし足元では、ドライバーの労働(輸送)時間を最小化する物流拠点の配置やトラックバースの設置、あるいは庫内作業員の労働(荷役)時間を最小化するレイアウトや機能整備が進んでいる。加えて人的依存を減らすため、自動運転技術や自動運搬ロボット等の導入も一部で始まっている。特にこうした取り組みの受け皿となる物流拠点には、高機能な大型物流施設が必要とされ、さらに、同拠点を、AI等を用いて最適化した新たな物流ネットワークの構築・再編が求められる。既に大型施設の大量供給が常態化しつつある物流施設市場ではあるが、今後も、EC市場の拡大や老朽施設の更新等をも追い風に、新たな需要創出・拡大が期待される。

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