私募投資顧問部 上席主任研究員
菊地 暁
「風の時代」にあった高次な不動産活用を
「風の時代」という言葉を聞いたことがあるだろうか。私は全くの門外漢であるが、占星術によると、これまで約200年続いた「地の時代」が終わり、価値観の変化をもたらす「風の時代」に突入したらしい。「地の時代」では物質的な豊かさや生産性、安定が重視され、組織への所属が重要であったのに対し、「風の時代」では情報やネットワークなどが重視されるという。また「風の時代」では、「経済の発展」よりも「意識の発展」が求められるとのくだりは合点がいく。会話の主語は「I」から「We」に変わり、自己中心的な解釈で行動するのではなく、他人のために自らどう行動するかが求められる時代になると占星術師は説いている。
人類はこれまでどのような歴史を辿ってきたか。人類の思考成熟度合いはマズローの段階欲求説に当てはめると理解しやすい。人類の歴史を紐解くと、領地拡大に躍起になっていた古代は「生理的欲求」の段階に該当するだろう。その後、人類は幾多の戦争・災害を経て「安全・安心な暮らし」(安全欲求)を求めた。また、「地の時代」では出自・門地・集団への帰属が拠り所(社会的欲求)であったが、近年では社会全体の成熟により、欲求対象が変化している。SNSの「いいね」を求める行動に象徴される「承認欲求」、さらには、成りたい自分を求める「自己実現欲求」への昇華である。
では、不動産で考えるとどうだろう。確かに、地名はブランド力となり得るし、CMのように駅近の土地の価値は色褪せることがないかもしれない。しかし、コロナ禍でリモートワークが急速に普及し、不動産のあり方を再考させた。これまでの職住近接から、ワークプレイスを複数持つ、郊外に構える等、「風の時代」にふさわしい、既成概念に囚われない個々のライフスタイルに合わせた不動産の活用方法が次々と提案されている。立地ブランド(社会的欲求・承認欲求)から、不動産を通じた自分らしい生き方(自己実現欲求)への変化を感じる。
一方で、世界に目を向けると、所得格差や生活環境格差は依然として解消されていない。飢餓に苦しみ、紛争に巻き込まれ、「生理的欲求」「安全欲求」さえ満たされない人々はたくさんいる。このような背景から、国連ではSDGsにおいて「誰一人取り残さない(leave no one behind)」をスローガンとした。これも不動産に置き換えることができるのではないか。いわゆる「負動産」をつくらない、自然を破壊する不必要な開発はしない。レジリエントかつ持続可能な社会の形成に求められる不動産って何だろう・・・。
マズローの段階欲求説に話を戻そう。彼は、晩年に六段階目となる「自己超越欲求」(利他欲求)の存在に気づいたと言われている。不動産における「自己超越欲求」とは何だろう。例えば、気候変動は「We」を主語として取り組むべき喫緊の課題である。そして気候変動対策は、企業側のミクロな視点でのリスク回避を実現し、さらにはビジネス機会をもたらす可能性がある一方で、マクロな視点では温暖化抑制として地球規模でのベネフィットにも貢献できる。「気候変動」を意識した不動産活用は、まさに「自己超越欲求」をも満たすものとなろう。そのためには、自ら考え、行動することが必要だ。「風の時代」に答えは用意されていない。