不動産分野TCFD対応ガイダンス改訂版への期待

私募投資顧問部 上席主任研究員   菊地 暁

 不動産分野TCFD対応ガイダンスが2024年3月に「不動産分野における気候関連サステナビリティ情報開示対応のためのガイダンス」として改訂され、公表される予定である。

 国土交通省では、2017年にTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)が公表したTCFD提言をうけて「不動産分野におけるESG-TCFD実務者WG」を設置、計4回の議論を経て、2021年3月に「不動産分野における「気候関連財務情報開示タスクフォースの提言」対応のためのガイダンス(不動産分野TCFD対応ガイダンス)を公表した。このガイダンスは不動産分野に特化しつつ、TCFD提言の経緯や制度概要等の前提となる情報を網羅し、海外事例やシナリオ分析事例等を豊富に盛り込み、情報開示のイメージが分かるよう解説する工夫がなされた。このガイダンスを教材としたセミナーも数多く行われ、不動産業界におけるTCFD提言に基づいた情報開示の手引きとして一定の役割を果たしたといえよう。

 TCFDはその後、2021年10月にTCFD提言の実施に向けた実務的な手引きである「別冊」(Annex)の改訂と「指標と目標」に関する補助ガイダンスを公表した。この改訂では、移行計画の作成やScope1,2の算出・開示が推奨された。これに続いてIFRS財団は2021年11月3日、投資家の情報ニーズを満たすサステナビリティ開示基準の包括的なグローバル・ベースラインを開発するためのISSB(国際サステナビリティ基準審議会)を発足させ、TCFDが推奨する開示事項を具体的な開示基準として整理・統一し、2023年6月26日に「IFRS S1号:サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」および「IFRS S2号:気候関連開示」を発表した。今後、TCFD提言に代わってIFRS S1号およびS2号をベースに開示方法を統一する方向で進められている。

 日本についてみると、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告における提言を踏まえ、2023年1月31日、企業内容等の開示に関する内閣府令等の改正により、有価証券報告書等に「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄が新設され、サステナビリティ情報の開示が詳細に求められることとなった。カーボンニュートラルが国際的合意となるなかで、TCFDに賛同する企業・機関は4,872(2023年10月12日現在)に上り、気候変動関連情報開示は当然となりつつある。

 このように、不動産分野TCFD対応ガイダンスが公表されてから3年が経過し、気候変動関連情報開示の動きは目まぐるしい。今回の「不動産分野における気候関連サステナビリティ情報開示対応のためのガイダンス」は、「不動産分野TCFD 対応ガイダンス」公表以降の情報を集約した、現行ガイダンスに係る追補版となる。近年の世界的潮流にあわせた取組への着手の検討や、既に取組を実施している不動産関連企業の開示事例を踏まえた具体的な分析方法等について、特にこの3年の変化に焦点を当てた解説を予定している。具体的には、シナリオ分析、GHG排出量算定方法などのほか、今後重要度が増してくると思われる項目についてはコラムでの掲載を予定しており、本ガイダンスは気候変動への取組を確実に推進するための羅針盤となろう。

 日々対応するサステナビリティ推進部担当者の業務負荷は相当なものと推察されるが、今回のガイダンスの公表が、ステークホルダーにとって有用な情報提供になると期待したい。

(株式会社不動産経済研究所「不動産経済ファンドレビュー 2024.3.25 No.659」寄稿)

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