私募投資顧問部 上席主任研究員
菊地 暁
行動計画策定はShould、気候変動対策はMust
米国のトランプ大統領就任後、脱炭素への動きに陰りがみられる。すでに、脱炭素の国際的な取り組みであるパリ協定からの離脱を決める大統領令に署名、再生可能エネルギーへの政府支援を縮小、化石燃料の採掘拡大を宣言した。
金融機関にも動きが出ている。報道によると、大手金融グループの「三井住友フィナンシャルグループ」は、脱炭素社会への実現を目指す国際的金融機関連合であるNZBA(ネットゼロ・バンキング・アライアンス)から脱退する方針を決めた。すでに、米国のゴールドマン・サックス・グループやウェルズ・ファーゴ、シティグループ、バンク・オブ・アメリカが脱退しており、今後、国内外において同様の動きが広がる可能性がある。三井住友フィナンシャルグループは「枠組みに加盟していなくても脱炭素の取り組みは続けられると判断した」と強調するが、NZBAからの離脱が相次ぐ状況自体、脱炭素への意識がトーンダウンしている感が否めない。
パリ協定が示した「世界の平均気温上昇を産業革命前から1.5度以内に抑える」という目標を達成するには僅かな停滞も許されないくらい切迫した状況にある。世界経済フォーラムが2025年1月に公表した「今後10年間の長期的なリスク」では「異常気象」が2年連続トップに、4位までを環境関連が占めた。異常気象の緩和には脱炭素が必要であり、この動きが一国の政権交代に左右されることは望ましくない。
一方で、ビジネスとして脱炭素を捉えた場合には、もう少し冷静な判断が必要となる。経済界が政治に左右されるのは世の常であるが、それでも経済界は、2050年の脱炭素社会が実現出来るか否か、それぞれについてシナリオを描いておく必要がある。我が国でも2050年のカーボンニュートラルを標榜し、官民一丸となってGHG排出量削減に取り組んではいるが、必ず達成されるとの保証はない。TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)改訂ガイダンスでは、開示の4中核要素の「戦略」部分に移行計画1を追加、具体的な移行計画の策定を支援する。これと並行して地球温暖化が加速した際の具体的な行動計画についても策定が必要である。つまり、世界全体で脱炭素を達成できずに地球温暖化が進んだとしても、企業として十分な対策が出来ているとステークホルダーにアピールする適応計画2の策定・公表が必要だ。ステークホルダーは、リスクを低減し、機会を増やすための具体的な行動、戦略やビジネスモデルに関心があり、この点からも、実効性のある適応計画の策定・公表が求められる。将来の不確実性への行動計画として、移行計画、適応計画双方の検討が必要となる。
TCFD改訂ガイダンスでは、「移行計画は少なくとも5年ごとに見直され、必要に応じて更新されるべきである。」としている。トランプ政権の誕生により脱炭素への動きに陰りがみられる現状においては、移行計画のみならず、適応計画の策定にも着手すべきである。