不動産ESG:気候変動問題の議論を経て、次は社会(S)の検討・整理へ

私募投資顧問部 主任研究員   菊地 暁

要約

 不動産のESG(環境・社会・ガバナンス)を検討する上で、気候変動問題は喫緊の課題であるとの認識から、昨年度は国土交通省「不動産分野におけるESG‐TCFD実務者WG」において活発な議論が行われた。今後、TCFDガイダンスの普及や気候変動をテーマとした各種セミナーの開催など、不動産業界に向けた一連の啓発活動は引き続き必要であるが、これと並行してESGにおける社会(S)の役割についても議論を進めていかなければいけない。

 今年度、国土交通省では、我が国の地域社会・経済の課題解決のために、不動産(オフィス、住宅、商業施設、宿泊施設、医療・福祉施設、物流施設等)がどのように寄与するかについて情報開示事例等の比較検討を通して、特にウォーカビリティ等の地域社会・経済に与えるインパクトの分野で不動産が大きく寄与する項目の調査・整理を予定している。この検討では、不動産各用途に対して期待される解決課題や、ステークホルダーが理解しやすい客観的な項目の整理、達成すべきSDGsの特定など様々な議論が行われることになろう。地方創生の議論も予定されており、個々の不動産にとどまらず、街づくりや都市の魅力などに話題が広がるかもしれない。この検討を通じてESGにおける社会(S)の重要性に注目が集まり、不動産業界全体のESG取組意識が環境のみならず、社会課題への対応に拡張していくことを願ってやまない。

(一般社団法人不動産証券化協会「ARES 不動産証券化ジャーナルVol.62」 寄稿)

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