私募投資顧問部 上席主任研究員
菊地 暁
脱炭素のキーワードは技術開発と協働・連携
脱炭素の動きが加速している。これまでも温室効果ガス(GHG)排出量削減の必要性は声高に叫ばれてきたが、2020年10月の菅首相所信表明演説における2050年カーボンニュートラル宣言を受け、業界紙はもちろんのこと、一般紙もこぞって脱炭素を特集、再生可能エネルギー関連株が急騰する状況となった。2021年4月の米国主催気候変動サミットでは、我が国は2030年の削減目標を当初の-26%から-46%(対2013年比)に引き上げ、同様にアメリカ、カナダも削減目標を引き上げるなど、気候変動問題に対する行動強化の国際的機運は益々高まりをみせている。
産業革命以来、人々は石油や石炭などの化石燃料をエネルギーとして経済成長を遂げてきた。その結果、大気中のCO2濃度は産業革命前と比べて40%程度増加したと言われている。一部において、地球は寒冷期と温暖期を繰り返し、GHGとは無関係であるとの学説も存在するようである。しかし、深刻な事態になってから「やはりGHGが原因でした」と後悔するよりも、今できる地球温暖化対策としてGHG排出量削減は当然の最重要施策であろう。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書(第1作業部会報告書)によると、2011~2020 年の世界平均気温(陸域)は、1850~1900年の気温よりも1.59℃上昇しており、世界平均気温は、同報告書で考慮した全ての排出シナリオにおいて、少なくとも今世紀半ばまでは上昇を続けると警告する。このような現状認識を踏まえ、気候変動枠組条約第26回締結国会議(COP26)では、1.5℃目標に向けて各国努力するよう、COPの場で正式に合意された。
また、欧州の機関投資家を中心につくられたCarbon Risk Real Estate Monitor(CRREM)は、パリ協定の2℃・1.5℃目標に整合するGHG排出量の2050年までのPathway(炭素削減経路)を算出し、公表している。我が国のPathwayを見ると、例えばオフィスセクターが1.5℃目標を達成するには、現在70~80 kgCO2/m²/yr の排出量を、2030年は43.1 kgCO2/m²/yr、2050年は2.9kg CO2/m²/yrに設定するなど、非常に高いハードルが示されている。
「ハードルが高すぎる」と諦めてはいけない。SDGsは「13:気候変動に具体的な対策を」を目標に掲げるが、「9:産業と技術革新の基盤をつくろう」「7:エネルギーをみんなに そしてクリーンに」はその手段となる。すでに脱炭素がメインストリームとなった現在、産業界はこれを「機会」とすべく、凄まじい勢いで技術開発を進めている。もはや脱炭素への挑戦が、産業構造や経済社会の変革をもたらすと言っても過言ではない。ハードルが高いと悲観せず、皆でGHG排出量削減努力をしつつ、2030年・2050年までには出現するであろう新規技術を期待しながら邁進しよう。建物施工・設備関連の様々な環境技術を結集した建築物が一般的となれば、決して実現不可能な目標ではないだろう。さらにSDGsは「17:パートナーシップで目標を達成しよう」を掲げている。この高いハードルの達成には、これまで以上にエネルギー事業者やBM・PM、さらにはテナントとの協働・連携による運用管理が重要となる。
COP26で合意された1.5℃目標に整合させるためには、我が国のGHG排出量削減目標は2030年までに-46%では足りず、-62%(対2013年比)が必要になる、との意見もある。人類の叡智を集結させて気候変動を食い止める・・・。2030年目標の達成に向け、2022年は非常に重要な年となるに違いない。
(株式会社不動産経済研究所「不動産経済ファンドレビュー 2022.1.15 No.586」 寄稿)