トランプ氏大統領再選が米国住宅市場へ与える影響
-アフォーダビリティは改善に向かうのか?-

海外市場調査部 上席主任研究員     深井 宏昭

 2024年11月5日に実施された米大統領選では、共和党のドナルド・トランプ前大統領が民主党のカマラ・ハリス副大統領を下し、大統領に返り咲いた。獲得した選挙人の数だけでなく、得票数においてもハリス氏を400万票近く上回り(2024年11月10日現在)、混戦になるという事前の予想を覆し、トランプ氏の圧勝という形に終わった。

 今後、民主党から共和党のトランプ氏に政権が交代することで、外交、経済対策から移民問題に至る様々な分野において、これまでのバイデン政権から政策方針が大きく転換されることが想定される。本稿においては、トランプ氏の選挙戦における公約や、これまでの同氏の発言などから、今後実施される可能性が高い政策を整理し、昨今、低下が懸念される住宅アフォーダビリティ(購入のしやすさ)への影響について考察する。

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 トランプ氏が掲げる政策の中でも住宅市場との関連性が強いのが、不法移民の削減、および住宅の供給制約となる各種規制の撤廃だろう。トランプ氏の公約では1千万人以上に及ぶと見られる不法移民を国外に追放することで住宅需要を抑制する一方で、住宅開発に関連する各種規制を緩和することで供給を増加させ、米国を長年悩ませてきた住宅アフォーダビリティ問題を解決しようとしている。

 しかし、いずれの政策も実現可能性という観点から疑問符がつく。不法移民の国外追放に関しては、根拠となる国内法の整備や外国政府との調整を含め乗り越えるべき課題が多い。人権団体などによる激しい反対活動によって法廷闘争にまで発展する可能性も高く、少なくとも短期的な実現可能性は低いと言わざるを得ない。また、中長期的に移民の削減が実現した場合においても、アフォーダビリティ問題の解決につながるかは不透明だ。NAHB(住宅建築業者協会)によると、米国における建設労働者の約25%は海外出身の移民によって占められている。不法移民の減少は、住宅供給能力の低下につながる可能性が高く、かえって住宅アフォーダビリティ問題を悪化させる要因にもなり得る。

 同様に供給緩和の実効性にも疑問が残る。現時点では、具体的な政策に関する言及が少なく評価が難しいが、そもそも、ゾーニングや建築物の環境規制を始めとする各種供給規制は自治体や州政府レベルで導入されているため、連邦政府が直接的に影響を与えることは難しいと見ている。またトランプ氏は、住宅供給増に向け、連邦政府所有の広大な土地を住宅開発用に開放する方針も示している。しかし、その多くは人口密度が低い西部地域に集中しており、住宅需要が強い都市圏エリアはほとんどカバーされていない。実行に移された場合も、その恩恵はごく一部のエリアに留まると見られ、全米の住宅アフォーダビリティの低下を食い止めるには不十分と考えられる。

 金利の動向も住宅アフォーダビリティ問題を見るうえでは重要である。トランプ氏は、政権奪還後FRB(連邦準備制度理事会)への介入を強化し、政策金利および住宅ローン金利の引き下げを敢行する方針を明言している。しかし、政治的に独立した機関であるFRBに対し、大統領がどこまで政治的な圧力をかけられるかについては疑問が残る。また、仮にFRBの決定に対し何らかの影響力を行使できたとしても、そもそもFRBがコントロールできる範囲は、政策金利など金融市場における一部に過ぎない。住宅ローン金利や、そのベースとなる長期金利は、将来のインフレ、国家財政などに対する投資家の期待に応じて、債券マーケットを通じて変動する。トランプ氏の勝利確定後、長期国債の利回りは上昇しており、住宅ローン金利の低下を目指す方針に水を差している。同氏が公約として掲げた減税政策および政府支出拡大により将来的に財政赤字が拡大することや、関税の引き上げによってインフレが長期化するリスクが懸念された結果と見られる。今後も、トランプ氏の思惑通りに、長期金利や住宅ローン金利が低下する見込みは薄く、政策の実現可能性は低いと判断せざるを得ない。

 これまで見たように、トランプ氏が公約に掲げた住宅関連政策の多くは実施までに大きな障害が存在しており、アフォーダビリティの改善には長い時間を要しそうだ。今後は当面、住宅価格および住宅ローン金利がともに高止まりし、借入に依存しない富裕層が住宅需要の中心となる一方、低~中所得帯の国民にとって、住宅を購入しにくい状態が継続する可能性が高いと見る。中長期的な影響については、今後実行される様々な政策が波及し、複雑に不動産需給に影響を与えるため、現時点で見通すことは難しい。今後の政策の進捗状況を確認しながら、その時々の市場動向を加味した上で、判断することになるだろう。

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