TCFD:浸水予想区域図を活用した被害想定額推計の可能性を探る

私募投資顧問部 主任研究員   菊地 暁

要約・概要

 近年日本では、気候変動の影響と考えられる大型台風やゲリラ豪雨などによる浸水被害が相次いでいる。浸水リスクがより重視され、不動産価格にもこれまで以上に影響を与えることになるだろう。
 機関投資家は、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の要請もあって、投資先企業に対し、気候変動が企業財務に与える影響の開示を強く求めるようになっており、不動産投資においても、投資先の運用会社の気候変動リスク、その中でも浸水リスクを看過出来なくなっている。運用会社が浸水リスクを対象としたTCFD開示をするためには、運用資産の浸水リスクを的確に把握・認識したうえで、個々の物件の被害想定額を推計することになると考えられる。これに関して本稿では、東京都建設局「浸水予想区域図」を活用し「浸水リスクの把握」を試みた。その結果、J-REIT保有物件を対象に投資物件の浸水リスクを概観してみると、分析対象とした1,589物件の約2割が浸水深50cm以上の床上浸水リスクが高いエリアに立地し、うち14物件は浸水深300cm以上の危険なエリアに立地していた。
 こうした実態を鑑みれば、近い将来、運用会社は保有物件の浸水リスクを被害想定額として推計し、それが企業財務に与える影響を定量的に把握する必要に迫られるのではないだろうか。本稿では国土交通省 水管理・国土保全局「治水経済調査マニュアル(案)」を用いた「建物被害想定額推計」と、その応用可能性についても考察した。ただし、浸水被害の影響は建物毀損のみならず、テナントの事業停止や退去に伴う減収や保険料増加などに及び、さらに浸水リスクは中長期的なエリア競争力にも影響を与えるかもしれない。このような要因を考慮した被害想定額の推計が本来的には求められている。今後、専門家を交えた検討が必要であろう。

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(一般社団法人不動産証券化協会「ARES 不動産証券化ジャーナルVol.56」 寄稿)

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