どっこい元気な欧州不動産市場

海外市場調査部長 主席研究員     伊東 尚憲

 3月29日、英国はEU離脱を正式に通告し、いよいよ離脱交渉が開始される。2016年は、不動産が高値圏にあったことに加え、英国民投票や米大統領選挙などで不透明感も強まり、世界の不動産取引額は前年比15%減と、7年ぶりの前年割れとなった。2017年も、離脱交渉の行方はもちろん、EU主要国での重要な選挙や、景気と金利の先行き、各地で頻発するテロ、など不動産を取り巻く環境は引き続き不透明感が強いままである。

 先日、フランスのカンヌで開催された世界的な不動産見本市MIPIM 2017に参加する機会を得た。前述のように、2017年の欧州不動産を取り巻く環境は不透明感に包まれており、さぞかし悲観的なムードかと思いきや、意外に楽観的で前向きな声が多く聞かれた。今年に入って、中国や香港の投資家がポンド安や不動産価格低下を背景に英国で大型不動産取引を積極化していることや、欧州大陸でも活発な不動産取引を伝えるニュースが増えていることで、欧州に対する投資家の信任の厚さを改めて認識しているようであった。そんな中、あちこちで注目されていたのが、物流施設と学生住宅である。物流施設は、ネット通販の増加による構造変化が期待される分野である。消費者に商品を届けるための都市周辺の物流施設需要が高まっているのは、世界各地で見られる現象である。学生寮や学生マンションなどの学生住宅は、世界的有名大学が多く、世界中の学生が集まる英国で先行していたが、ここにきて欧州大陸でも注目されている。英国のEU離脱によって学生の動きに変化が予想されることに加え、欧州大陸の大学でも英語カリキュラムを拡充させたことで、海外から学生が集まるようになっており、学生住宅が不足していることが理由である。

 では、なぜ不透明感が強いにもかかわらず、欧州不動産は投資先として人気なのであろうか。第一に不動産市場規模が大きく、欧州を外すに外せないことがあげられる。投資適格不動産市場規模を推計すると世界に占める欧州の割合は約30%、先進国に限ると約40%を占めている。また、世界の不動産取引額に占める欧州市場の割合も30~40%となっている。第二に、欧州は、さまざまな投資機会を提供することができる。統合されてはいるが、個別に見ていくとやはり異なった市場である。景気や不動産市場のサイクルは異なっており、多様な文化や特性を持つ投資市場が広がり、コアからオポチュニスティックまで幅広い投資が可能である。投資戦略にあわせた選択肢が欧州内のどこかに用意されている。第三に、他地域と比較して不動産透明度や流動性が高いため、欧州は投資しやすく、魅力ある市場と言える。通貨安や価格調整は、これまで参入できなかった投資家にとって絶好の投資チャンスとなっている。

 先行き不透明感は強いが、それは欧州に限った話ではない。長期投資を前提にすれば短期的な変動は許容できるし、どこかに投資をするならば投資機会の多い、魅力的な市場に投資をしたい、という判断のもとで欧州投資が活発化しているものと考えられる。とは言え、不動産の価格循環的には多くの市場が高値圏にあり、ちょっとしたきっかけで調整されやすい状態にある。投資対象を慎重に選別することと、リスク要因をしっかりとモニタリングすることが、より重要になってくると思われる。

(株式会社不動産経済研究所「不動産経済ファンドレビュー 2017.4.15 No.425」 寄稿)

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